私たちの地元、和歌山県那智勝浦町は「まぐろの町」として古くから賑わってきました。那智勝浦に入港する鮪船は全て「延縄(はえなわ)漁船」のみ。これは、世界的に見てもとても稀な事だと世界自然保護基金(WWF)の方が言っておられました。
延縄漁とは、幹縄(みきなわ)と呼ばれる長いロープに、一定間隔で枝縄(えだなわ)を垂らし、その先の釣針にアジやイカ、サバ、サンマ等の餌を1 匹ずつ付けて海に投げ込み、かかった鮪を捕獲する漁法です。枝縄と枝縄(つまり釣針どうし)の間隔は約50m、漁に使用する縄の長さは50~150kmもあり、投げ込み終わるまで4~6時間、また縄を揚げるのに8~15時間もかかります。そして、全ての針に鮪がかかるという保証はなく、それだけの時間を費やしても1隻の船が捕獲できるのは1日で多くて1トンほどと、漁師にとって時間も手間もかかる効率の悪い漁ですが、しかし、水産資源の視点から考えると、針にかからなかった鮪は翌年に向けてたくさんの卵を生んでくれる、いわば持続可能なエコな漁法だとも言われています。
また、延縄でかかった鮪は1尾ずつ内臓や血を抜く「活き〆」という作業を行います。手間はかかりますが、この作業をするとしないのとでは、おいしさが格段に違います。例えば、年始の初競りで東京・築地で数千万もの高値が付くのも100%延縄漁で捕獲された鮪なのです。
一方、もっと簡単で楽な漁法もあります。「巻き網漁」です。魚群探知機で魚の群れを探し、集魚装置を用い大きな網で群れを包囲して獲る漁法で、一日の漁で延縄漁の100倍に当たる100トンもの鮪を捕獲できます。
この巻き網漁の問題点は、産卵しようとする親魚やこれから大きく育つ稚魚までをも一網打尽にすることです。小売店で天然物の「ヨコワ」や「メジ」という名前で販売されていれば、それです。簡単で楽な漁法で、しかも大量に捕獲できるので安く出回っていますが、延縄船の鮪のように「活き〆」作業はしないので、ドリップ(血のような赤い汁)が出ていて、それとともに旨み成分も一緒に流れ出し、おいしさは激減です。また、網の下の方の鮪は上からの重みで潰れてしまいます。それでも、何とか食べてもらえれば鮪もまだ救われるかもしれませんが、最も酷い仕打ち=「獲れ過ぎて売れないから」と海に廃棄されてしまうことも少なくないのです。
皆さまに知っていただきたいのは、天然鮪と一括りにされていますが、価格面でも、おいしさの点でも、そして鮪の資源保護の点でも、全く異なる2つの漁法があるということです。私たちは、効率は悪いし時間も手間もかかりますが、子や孫、その先の世代までずっと食べ続けられる延縄漁のおいしい鮪にこだわり続けたいと思います。
(脇口水産 脇口 光太郎)
2017年『life』390号
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