トレテスがインドネシアの乾燥糸こんにゃく「ぷるんぷあん」と出会ってから25年が経ちました。元残留日本兵である石井正治さんの「日本とインドネシアとの懸け橋になりたい」という想いを引き継ぎ、25年の間、インドネシアとの交流、友情をはぐくみ、商品の販売を続けてきました。現在では、約50世帯の農家の貴重な収入源となり、工場では集落の女性200名が働くほど、重要な産業になりました。
ぷるんぷあんで培ったノウハウを活かし、次の商品や生産者を紹介することがトレテスの使命だと考えるようになった時に、エストニアで「オーガニック・ロー・ビーガン」という貴重なチョコレートを製造しているアイヴォさんのことを知りました。動物性原料を一切使わないとびきりおいしいチョコレートを、家族経営でひとつひとつ丁寧に製造しているとのことでした。
昨年10月、アイヴォさん家族に会いに、エストニアに行きました。ご夫婦には6人のお子さんがいて、南エストニアの静寂な白樺樹林に囲まれた廃校をリノベーションして工場兼住居にされています。彼らのライフスタイル自体が徹底的にビーガン(完全菜食)で、エコロジカル。チョコレートを包むフィルムも土に還る生分解性のものとこだわっています。
アイヴォさんのチョコレートは「ローチョコレート」。原料はすべて非加熱で栄養価が豊富なものを自分自身で厳選します。コンチングと呼ばれる原料を練り合わせる行程は、42℃以下の低温で管理し、3日もの長時間、入念に状態をチェックしながら進めます。大量生産は行わず、自分の目が届く範囲で作業します。非効率的に思われる製造方法を選択している理由について、アイヴォさんは、「最初は、自分の子どもに、自分自身が心から食べてもらいたいと思えるチョコレートを作りたいから始めた。それを食べたときの彼らの喜びと感謝が忘れられない。そこから、自分の子どもだけでなく、世界中の子どもたちにも本当に安全で心のこもったチョコレートを食べてもらいたいと思ったんだ」と言います。
スピード重視、効率化、IT化、今の日本社会はとてつもない勢いで変化しています。しかし一方で、人間が根源的に忘れてはいけない感覚やモノを選ぶ価値観がきっとあると思います。アイヴォさんのチョコレートと彼のモノづくりに向き合う姿勢は、そのことを思い出させてくれます。
今年、よつ葉のカタログ『ライフ』に初めてこのチョコレートが掲載された翌日、アイヴォさんからメールが届きました。「今朝、日本を訪れ、チョコレートを愛してくれる日本の消費者の皆さんと会える夢を見た」と書かれていました。この夢が正夢になるよう、トレテスもしっかりとその魅力とこだわりを伝え続けていきたいと思います。
(トレテス 中川 啓)
2020年『Life』190号
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