京・甘納豆処 斗六屋(とうろくや)(京都府京都市)-2



スイーツがデパ地下の花形になって久しい。減糖やヘルシー志向もどこ吹く風の「スイーツは別腹」。甘い誘惑は一つの精神安定剤かも(個人的言い訳)。
気になるのは伝統的な和菓子の存在。「緑茶に和菓子。煎餅にほうじ茶」は、茶飲の風習と共に遠くなりつつあるのが残念だ。和菓子はヘルシーなデザートと海外で注目されはじめているのだが。さて甘納豆の話になる。誕生は江戸時代と歴史は長いが、老舗銘菓が多い和菓子売り場のなかで、甘納豆の存在はどこか控え目だ。
そんな和菓子の脇役を、表舞台へと引き出したのは、京都の斗六屋である。創業は1926年。初代が京都南座前に開いた甘味処で、甘納豆の製造販売を始めた。その後京都・壬生に移り、現在は4代目近藤健史さん。「甘納豆研究家」を名乗る。え? 研究家と称する面々は多いが初耳研究家である。「はい、言いだしっぺの初代です」と笑う。32才。大学院で微生物学を研究してきた。甘納豆とは縁遠い世界で、絶対に家業を継ぐまいと思っていた。が、今は甘納豆づくりが天職となった。甘納豆は、人と人、人と自然をつないできた日本の伝統食文化であり、科学・文化・芸術に通じる世界だ。
知られざる甘納豆の奥深さの一端を見せてもらう。先代の頃の機材もそのまま、歩んできた歴史を感じさせる工場へ。一歩足を踏み入れると、温かい湯気と豆を煮る甘い香りに包まれた。甘納豆づくりは、まず良い豆選びから。全国の生産者を廻りこれぞという豆を入手する。「甘納豆は1日にして成らず。育てる和菓子」と健史さん。炊く前日からの浸漬、季節・温度・湿度と微妙な調整が要る。次に豆炊き。炊き過ぎるとあんこ状になり、足りないと皮が口に残る。加減は針金1本と手に伝わる感覚のみの職人技。蜜漬けはさらに慎重を要する。日に3回、火入れで徐々に糖度をあげていく(ここがしっとりとした口あたりのポイント)。そして乾燥。冷めないうちに砂糖をふる。多いと乾きすぎで固まり、少ないと豆どうしくっつく。ふるいで優しく均等に。そして選別となる。
豆と砂糖のみで変幻自在の味をつくりだす魅力にはまった! 4代目の甘納豆愛には脱帽である。初代が愛した美人の豆、名代斗六を味わう。北海道産の大粒白花豆、在来種の和三盆が淡雪のようにふりかかりふんわり包む。やわらかく芯までしっかり溶け込んだ蜜とのハーモニーとやさしいくちどけ。豆がつくり出した和菓子の宝石である。

(左)冷めないうちに砂糖をふる。 (上)近藤さん(左)と井ノ口さん
【塩川 恭子さん】プロフィール
青森県生まれ。1996 年より「おいしくて安全な食べ物を食卓に」届けるために、生産者、流通、 消費者の架け橋をめざす「食の学校」を主宰。さまざまな分野で「食」の仕事に携わる人たちとのネットワークづくりをおこなっている。
斗六屋
甘納豆お好み
豆の個性が楽しめる
斗六屋
加加阿甘納豆
カカオ豆とココナッツシュガーで作った4 代目の自信作