タマタニ(石川県輪島市)


タマタニは、石川県の能登半島のずっとずっと北のほう輪島市にあります。海に囲まれた能登半島でも外浦(日本海)に面した輪島は、冬の厳しさは半端ではありません。風で窓が割れるという話は他でも聞いたことがありますが、輪島では冬になると風で窓がサッシごと飛んでいくくらいです。
私は富山県の出身ですが、8年前からタマタニの製造を任されるようになり、この地で暮らすようになりました。当初は、「どこのヨソモンや?」という顔で見られて、地元の方と馴染むのに大変苦労しましたが、「能登はやさしや土までも」という言葉通り、今では近所の方も家族のようにふるまってくださいます。ありがたいことに、食事に招いてくれたり、弁当やおかずを差し入れてくれることも。また漁師さんからは「こんな魚揚がったげんけど、なんか加工してみんけ?」と提案してもらうようになりました。
今回、ご紹介するのは「能登いしり」です。いしりは日本の3大魚醤の一つと言われており、能登では江戸時代から、醤油より古い歴史があります。能登のいしりは外浦ではアジやサバやイワシを使ったものが多く、内浦と呼ばれる富山湾に面した方ではイカを使ったものが多く作られています。
タマタニのいしりは秋に前浜の鹿磯漁港で水揚げされた新鮮なサバを使います。水揚げ後すぐにタンクで運んできて、その日のうちにまるままミンチにします。それに塩をまんべんなくまぶして(これが重労働! 簡単なように見えて、塩の加減などは熟練の技です)、そのまま樽に入れて約2〜3年完全に発酵させます。このとき使うサバは、鮮魚としてはあまり出回らない300g 未満で脂のないものでなければなりません。かつて私が製造に携わり始めた当初、脂のあるサバのほうがおいしいと思い、奮発して脂のあるサバで仕込みをしたら、2年後に、脂が浮いていて、いしりがダメになってしまいました。300g 未満のサバを使うのは、鮮魚としてはあまり価値がないサバでも、海からいただいた魚を無駄にせずに有効活用するという先人の知恵でもあると感じました。
完全に発酵したいしりは、透明で透き通っており、天然の旨み成分がたっぷり含まれています。天然のアラニン、グリシン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸などが豊富に含まれており、お料理に小さじ1杯くらい使用していただくと、味に深みが増します。ガパオライス、野菜炒め、チャーハン、焼きうどんなどの炒め物にはタイのナンプラーと同じ使い方で、またクリームシチュー、ポトフ、チャウダー、ブイヤベースなどのスープ系や、イカと大根の煮物や里芋の煮物などにも、さらにこれからの季節、おでんにもお鍋の

出汁(具材は海鮮系がオススメです!)など、幅広くお使いいただけます。
能登伝統のいしりをぜひ一度お試しください!
(タマタニ 板垣猛)
2020年『Life』490号

ミンチにしたサバにまんべんなく塩をまぶす
タマタニ
能登いしり
能登・輪島で獲れた新鮮なアジとサバに塩を加えて
じっくりと約3年かけて熟成させ、完全発酵させた魚醤です。
料理に少し加えるだけで、ぐんと味わい深くなります。