私が子どもの頃、「イワシが来とるで~」という由良港の大人たちの声を聞くと、工場のバケツをつかんで一目散に目の前の浜に走っていったもんです。遠くからでも海がイワシ色に鈍く光っていて、砂浜で靴を放り投げて、腰まで海に入れば小学生でもバケツですくえるほどに泳いでいました。
秋から冬にかけてはもちろん、季節を問わずに太平洋の黒潮に乗り淡路島を抜けて大阪湾や瀬戸内にまでたくさんの真いわしが入ってきました。小さな稚魚の“ちりめん”から20cmにもなる大羽(おおば)サイズまで、いつもイワシは身近な魚。そして、茹で上げたちりめん、天ぷら、フライ、夏の梅煮、お刺身、冬のつみれ団子汁など、季節ごとに母が手作りするイワシ料理がいつも食卓にありました。さらに何より、近所の練り物屋で買う揚げたてのさつま揚げは、学校帰りにほっぺたが落ちそうなアツアツのオヤツでした。
当時イワシは淡路島のどこの漁港でも活況で、小さな港の経済の底支えをしてくれていました。その真いわし漁の水揚げが急に無くなったのは20年ほど前から、太平洋からの群れが急に無くなりました。青魚は大きな周期で生育数が変わるそうで、日本の他の港でも同じように獲れなくなりました。加えて大阪湾では空港や橋が作られ、護岸工事や埋め立てでイワシの餌になる小さな生き物が育まれる砂場や藻場が大きく減って、海の環境が変わってしまいました。
それでも10年前くらいから昔のきれいな海に戻ってきていると実感することが多くなりました、そして4~5年前くらいから久々に「イワシが来とるで~」と漁師から聞こえるようになってきました。最初はイワシの気まぐれかと思っていましたが、年々増えてきて、そして昨年の秋・冬は「真いわしが大漁やで~」と浜が沸きました。小ぶりですが、鮮度ピッカピカの真いわし。脂のりは控えめですが、身質は締まっていて、シコシコッという歯ごたえ、真いわしの特有のクセが無くて、腹ワタも風味がまろやかで食べやすい。
まずは一尾ずつ包丁で丁寧にウロコを取り、料理酒「蔵の素」を入れた塩水にくぐらせ、天日に干して酒塩の丸干しに。鮮度が良くて臭みがないので薄塩で仕上げました。次に頭とハラワタをとって、キレイに下処理。身が締まって扱いやすいので、和・洋・イタリアンまでさまざまな料理に合います。オリーブオイルで「アヒージョ」がオススメ。絶品に旨い!ワインに合う!!
天然ワカメ、イカナゴに続いて淡路島の海の豊かさを感じられる魚=真いわしがようやく帰ってきてくれてホンマにウレシイことです。どうぞご家庭のメニューに加えてください。値段も家計にやさしくお値打ちにできました(笑)。
( 武田食品冷凍 武田 康平)
『life』2017年140号
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