武田食品冷凍(兵庫県洲本市)その1
昔ながらの直火で最初から最後まで強火で煮詰めるいかなごくぎ煮
今年のいかなご漁は、2月26日の解禁から漁模様が少なく、このままでは約20年前以来の大不漁かと心配しましたが、何とか少ないなりに安定した水揚げが続きました。それでも例年の半分程度の水揚げになるのではないかと思われます。価格も高値が続き、とくに前半戦は異常に高騰しました。
私たちのくぎ煮づくりは、漁が終盤にさしかかる頃から、大阪湾ではなく淡路島の西側、瀬戸内のいかなごを使って炊き始めます。それは、魚本来の旨味を味わってもらいたいという思いから、大きめのいかなごを使うため。それに、淡路島の西側(瀬戸内)と東側(大阪湾)とでは、同じいかなごでも体型が少し違うためです。潮の流れのせいなのか理由は良く分かりませんが、西側はスリムで、東側は少し丸みがあって脂が強め。微妙な違いですが、私たちは本来の旨味がより味わえると感じて、西側のいかなごを使っています。
ここ数年、いかなごくぎ煮の製造方法も大きく変わりました。直火ではなく高温のスチームを使って炊く蒸気釜が普及し、一度に大量に製造できる方法が主流になっています。蒸気釜で炊くと、材料の焦げ付きの心配も少なく、手間をかけずに製造することができます。また工場内も暑くならず、体力的な負担も大きく軽減できます。さらに、今まではくぎ煮にできなかった極小のいかなごでも、炊くことができます。まさに良いことづくしの装置といえます。
しかし、地域に伝わってきた伝統料理で、もともと家庭料理である「くぎ煮」という特徴からみると、私は若干の違和感を感じています。いかなごくぎ煮は、最初から最後まで強火でタレが無くなるまで一気に煮詰めます。そうすることで、程良い粘りが出て独特の旨みとしっかりとした歯ごたえが生まれます。加えて、大きめサイズのものを砂糖の量を控えて直火で炊くことで、調味料の味に負けずにいかなご本来の旨み、ほんのりとした苦みがあるくぎ煮に仕上がるのです。
直火炊きの製法は手間が掛かり、工場は40℃を超える暑さでとても身体に負担がかかります。でも、間違いなくおいしい商品ができあがります。私たちは、これからも昔ながらの直火炊き製法を守り続けます。
(武田食品冷凍 武田康平)
49台の鍋を次々に返していきます
職人武田さんの渾身の鍋振り