杉本水産(熊本県水俣市)


今年水俣の桜は、めずらしく東京や関西より遅咲きだった。4月に入り、入学式にちょうど良い満開であった。ただ、日本中の生徒や保護者は桜どころではなかったろう。3月から新型コロナウィルスの影響で、登校できなかった生徒たち。水俣ではなんとか卒業式や入学式は行なわれたが、入学式2日後にはまた休校。生徒たちの登校の声はしなくなった。
私も3月からいっさいのステージ活動や講演も無くなりさみしい限り。5月くらいは落ち着くだろう、と楽観していたが、4月には緊急事態宣言。残念ながら、とても楽しみにしていた「よつばの学校」で会員・職員の皆さんの前で講演する機会も延期となってしまった。
新型コロナウィルスの話題は事欠かない毎日であるが、私が一番気になったのは偏見や差別である。早々期にはアジア人に対する差別発言、その後は医療関係従事者やその家族に対しての差別記事など目にすると心が痛む。
かつて、水俣でも同じように水俣病患者に対する差別があり、患者とその家族は苦しんだ。水俣病は当初原因不明の奇病と呼ばれ「患者になるとうつる、村を歩くな…」などと言われて、差別に苦しんだ。水俣病患者の1人である母は、語りのなかで「私たちは、水俣病が辛く苦しいのではない。一番辛かったのは差別です…」と言っていた。
病を差別することで患者は新たに病を背負わされる。このようなことは絶対あってはならない。水俣と同じような出来事があると私たちはとても辛い。まして医療関係従事者は、いつ止むともわからない危険と隣り合わせで仕事をしている。今こそ、水俣の経験を忘れないでほしい。相手を思いやる日本人の心を忘れないでほしいと思う。
さて、今水俣は新緑の季節になっている。まぶしい季節である。芽吹きとみかんの木は一斉に白い可憐な花を咲かせ、海に面した私の住まいがある入江は、みかんの花の甘い香りに包まれる。
海藻もこの時期繁茂し、大潮で潮が引いた海岸は伸びた海藻が彩りを添える。ちりめん漁が始まる前のひと仕事は、ひじきやその他の海藻を収穫している。海岸に干したひじきの磯の香りもまた良い。

この混乱の時期に私たちができることは、終息を待つことと、食を守ることくらいしかないが、当たり前に訪れる季節、自然に感謝しながら、いとしい魚を心待ちにしている。
(杉本水産 杉本肇)

釜あげちりめん

水俣湾
杉本水産
杉本水産の釜あげちりめん
絶妙な塩加減、磯の風味、そしてプリプリとした食感。