・三里塚物産(千葉県成田市)その4

「故郷は遠きにありて思ふもの〜」は、室生犀星の詩句の有名な冒頭ですが、これは遠方にある故郷を懐かしく思うだけの詩ではなく、故郷は都市で孤立無援だった青年には懐かしく忘れがたい。それだけに、故郷が冷ややかである時は胸にこたえて悲しい。その愛憎の複雑な思いを、感傷と反抗心をこめて歌っていると云われているそうです。
私が20歳を過ぎて社会人として都市部での生活を送っている間に、地元である三里塚では空港の騒音地域拡大の関係で借地だった実家を含む地域全体の集団移転があり、闘争の支援者としてこの地に移り住んできた私の両親も地元を離れ、のちに出身地域である関西に引っ越しました。私が都会から戻ってきて三里塚物産に勤め始めた2011年頃には、地元の風景は人々の営みがある「田舎」ではなく、空港の管理地域として定期的に業者が除草する「野っ原」のような場所になっていました。この地域における三里塚闘争という一つの時代の終わりと、古村の永い営みの終焉の風景が広がっており、育った地域の変わりように言いようのない淋しさと虚無感を感じています。
肝心の「思ふべき故郷」の風景がなくなって初めて、今まで当たり前に存在し気にも留めていなかった地元の原風景である田畑や大屋根の農家住宅(古民家)に強く憧れを抱くようになっていました。その後三十路を過ぎて結婚を機に同じ町の南部の農村地域に空き家だった農家住宅をたまたま見つけて購入を決意し、現在改装して家族3人で住んでいます。実はもう一人、私のような境遇の同級生がいて、彼は20代を都内で過ごし、同じく結婚を機に30代前半で地元に戻り実家の農業を継いでいます。さらに生粋の江戸っ子で、やはり三十路を過ぎてから飲食業界を脱サラし、有機農業を目指して研修・就農した友人も近所に住んでいます。
都市部と農村、両方の生活を体験してきた私たちが話し合ってみると、共通して感じていることが判りました。それは、生活に関するあらゆる場面で体感する「感覚」が都市と農村では大きな違いがあるということです。「金銭」「時間」「人付き合い」「移動手段」…数え上げたらキリがありません。都市部での生活経験があるからこそ、農村の中で接する田畑や山林、川、空気、地域の人々との関わりのある生活が、そしてそこで生み出される農産物や食べものと接する時間がどれほど魅力的であるかを、新鮮な「感覚」で日々実感し、そして伝えることとができるということにも気がつきました。

そういう意味で、この地域の新しい原動力となり未来を担う農家と共に、今一度三里塚物産の製品を通じてこの地域の魅力を、そのまま皆さまの食卓にお届けできればいいなと考えています。
( 三里塚物産 大森 武徳)

若きらっきょう生産者の池上さん

三里塚物産の皆さん
三里塚物産
無農薬らっきょう田舎漬
契約農家で栽培した無農薬らっきょうを
低塩でじっくり乳酸発酵させています。
三里塚物産
無農薬人参ジュース・三里塚
千葉県産の無農薬人参をそのまま搾った
ストレートジュース。甘みたっぷり。
1袋に人参約2.5本分使用。