三陸・気仙沼に集まる漁船のお世話をする廻船問屋業(漁船に食料品や燃料などを供給する)を営んでいた斉吉商店が、とれたての魚を使って惣菜加工を始めたのは1994年のこと。「地元のとれたての魚を全国の皆さまにお届けしたい」との想いからでした。「鮮度の良さが最大限に活きるように」との気持ちから、添加物や化学調味料は使わないことを決めていて、そうした製品づくりが少しずつ全国に販売先が広がってきていました。
しかし、6年前の東日本大震災では店舗・工場全てが被災し、すべてを失う事となりました。当時は気仙沼全体が被災した状況。私たちも呆然としながらがれきの中を歩いて回りました。そんなとき、震災から3日後の3月14日に、主力商品である「金のさんま」づくりに欠かせない、秘伝の返しだれが見つかったのです。実は社員の1人が、この秘伝の返しだれをトラックに積んで避難したのですが、途中で津波に追いつかれてしまい、トラックを乗り捨てて逃げたのです。しかし、その社員はトラックが流れていく方向を確認していて、状況が落ち着いてすぐに、歩いて探して見つけだしてきてくれたのです。
「金のさんま」の返しだれは、20年以上毎日休まずに継ぎ足し続けているもので、自然のうまみの積み重なりでできたものです。長い時間をかけて継ぎ足すことによってできるたれなので、斉吉ではこのたれを“人命の次に持ち出す”ことを決めていました。工場の製造マネージャーの提案で、緊急時にはすぐに持ち出せるようにと、冷凍した返しだれをリュックに入れ、定位置に保管してありました。
実は3月14日は斉吉商店の現代表、斉藤純夫の誕生日。たれを見つけ出してくれた社員が「はい! これ社長の誕生日プレゼントです」と言って、返しだれが入ったリュックを持ってきてくれた時のことを忘れません。そして、手元に戻ってきてくれた、この返しだれを使って「金のさんまから、また始めよう」と決めたのです。そうして震災から4カ月後の2011年7月、内陸にあった工場の一部をお借りし、「金のさんま」一種類から製造を再開しました。
斉吉では「美味しい食卓 豊かな暮らし」ということを大きなテーマとしています。みんなで集まってにぎやかに食事をするとき、忙しく帰宅したとき、おうちの冷蔵庫に入っていたら、ちょっとうれしくなるような商品。あたたかい食卓を囲む楽しさをお手伝いできるような商品。そんな瞬間をイメージした商品づくりをしています。そして手仕事を一層大切にし、気仙沼らしい人の営みが、おいしさとして伝わるような商品作りに力を注いでいきたいと思います。
(斉吉商店 斉藤 和枝)
2017年『life』340号
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