私たちを取り巻く環境は近年大きく変化し、アレルギー疾患の罹患率は増加の傾向にあります。特に、アトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎(花粉症)、食物アレルギーなどのアレルギー疾患が若年層を中心に増加しており、今や国民の数十%が何らかのアレルギーを持つと言われています。
僕自身も小さい頃からアトピーや食物アレルギーを経験してきました。そのような自分自身の経験もあって、これまでアレルギー対応のパンとして、牛乳不使用や卵不使用のパン作りに取り組んできました。そんな中、今から15年以上前でしょうか。ある産直センターのスタッフから「子どもが小麦アレルギーだから、小麦を使っていないパンを作ってもらえないでしょうか」と尋ねられたことがあります。
当時、パン職人として駆け出しで、未熟であった僕は「パンには小麦のたんぱく質に含まれるグルテンというものが必要で、それがないと膨らまず、パンができないんです」と解ったようなことを言ったのを覚えています。恥ずかしながら、当時は小麦の入っていないパンを作ることをあっさりと諦めていました。その後、世間では米粉の入ったパンが少しずつ出回るようになりましたが、パンのふくらみを保つために小麦由来のグルテンが添加されており、やはり小麦アレルギーに対応したパンはありませんでした。
そんな折、ある製粉会社が作った米粉のパンを試食する機会がありました。形は不格好でふくらみもなく、食べた感じはパンというより、お餅とパンの中間のような不思議な食感でした。でも焼いてみると、とてもおいしく衝撃的でした。自分自身の中では、パンというのは小麦の成分が必要で、ふくらんでいるものだという思い込みがあったと思います。このパンを食べて、パン職人である自分にはもっとできることがあるのではないかと思いました。
そこから、さまざまな米粉をいただき、試作を繰り返しました。米粉というのは、小麦粉のように厳密に水分量などの規定があるわけでなく、品質も安定しないことがあります。前回の試作時にはこのレシピでできていたのに、次はできないということも多々ありました。それでも試作を繰り返し、ようやく「米粉100%パン」として、お米の甘味、もちもちした食感を生かして作り上げることができました。
これはパンではないという声もあるかもしれません。しかし、小麦で作ったパンと違っても、不格好でも、僕は良いと思っています。日本の食文化の伝統のお米ならではのおいしいパンができたと自負しています。そして、“パンを食べたことのない子どもにパンを食べさせてあげたい”と思うお母さん、お父さんの気持ちに、少しでも応えられていれば幸いです。
(パラダイス&ランチ 高木 俊太郎)
2017年『life』090号
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