大北食品 (京都府亀岡市)その3

鍋といえば、なぜか寒い時期の料理ということになっています。なぜか?は、よくわかりませんが、私たちの意識に強く刷り込まれているのは確かです。
鍋のことを考えると、10年ほど前、韓国の消費者グループを訪ねた時のことを思い出します。韓国各地の生産グループを案内してもらったのですが、その際のもてなしの料理がすべて鍋料理でした。旬の種々の食材を上手に利用した、多様な鍋料理がありました。鍋を共につつきながら、語らい、交流を深める機会でした。
韓国社会では鍋料理は季節とは関係なく、日常的なもののようでした。共に食べる、共に食卓を囲む、そんな日常の食生活にとって、鍋は簡便で重宝なものなのです。私たちの社会より、随分と、横の人の関係のつながりが濃いと感じた韓国でした。そんな関係が社会の底を流れているからこそ、民衆の力でかつて軍事政権を倒すことができたのではないか、と勝手に想像したものでした。食のあり方は社会のそれと深く関係しているのです。
人は、他の生き物と異なり、食を単なる「餌」とは思わないでしょう。実際、日々の食を通して、さまざまに人間関係を育て、培うのです。少し前には、イタリアを発祥の地としたスローフード運動が力をこめて紹介された時期がありました。ファストフードが勢いを増す社会に警鐘を鳴らすものでした。そこで、何よりも強調されたのは、食を人と共にする機会をどんどん減らした社会の行く末への危惧でした。今や、その危惧は現実と化しているかのようです。
最近の私たちの社会においては、「コンビニ婚」などという表現があります。人と関わるのが不器用な人は今も昔もいたのでしょうが、今は、深く人と関わらなくとも生きていける社会です。それを言い表して妙な言葉です。横につながる人の関係が薄れ、縦の関係ばかりが強くなる社会は人々を幸せにしません。食を共にできる生きものは人だけだと先に書きましたが、共に食することの大切さをもっともっと考える時ではないでしょうか。
そこで、鍋。その効用は実に豊かなものがあります。冬の料理ではなく、心をあたためる「鍋料理」、と考えてもらい、それを活用する機会が増えればいいな、とおすすめしたくなる料理です。家族、友人、知人、職場の同僚、遠来のお客さまへのおもてなし等々、鍋を囲み、語らいながら親交を温めれば、料理を何倍にも楽しむことができます。調理は簡単で手間はたいして要らない、少しばかり出汁の助けを得て、食材は時々の旬の素材を自在に活用する。食べ終わった残り汁には素材のうまみが濃厚に出ているので、雑炊などにすれば、翌朝でも余すことなくおいしく食べられます。
おいしくて、食材を無駄にすることなく、しかも体ばかりでなく、心を温めてくれる鍋です。
(大北食品 鈴木 伸明)
2017年『life』50号

大北食品
よつ葉の豆乳鍋つゆ
赤地鶏のがらスープをベースに白味噌と
豆乳で作りました。ストレートタイプ。
大北食品
よつ葉の寄せ鍋つゆ
赤地鶏のがらスープをベースに津乃吉の
20年ものの昆布たれを使用。ストレートタイプ。