西製茶所(島根県出雲市)その1
体にしみ込むようなお茶を目指して
焙煎作業を終え、近くの郵便局に行くと顔なじみの局員さんが鼻をくんくんさせて言います。「西さんからほうじ茶のいい香りがしますねぇ」。
春、青々とした新芽に覆われた茶畑は大変美しいものです。大事に大事に育てた茶畑がたまらなく愛おしく、様子を見に行くと言って出かけた父はなかなか帰ってこないことも。その日の作業を終えほっとして、季節によってホタルや赤とんぼが飛ぶ姿を見ると、出雲の豊かな自然の中で生きものと共存しながら茶樹を育てる、そしてそれを原料に一生懸命製茶して、そのお茶を飲んでくださる方がいるということが、本当に幸せなことだと感じます。
私たち西製茶所では、30年前から国産紅茶の製造にも取り組んでいます。作り方の違いによって同じ茶葉が、緑茶にも紅茶にもなります。寒い季節になると、爽やかな香りの「出西(しゅっさい)しょうが紅茶」がおすすめです。茶葉も、生姜も農薬を使わず栽培されたものを原料にしています。我が家では、これを使ったジンジャーミルクティーも定番です。
“すっと体にしみ込んでくる”、それが私たちが理想とするお茶の姿です。そこに鮮烈さは乏しいかもしれませんが、だからこそ日々の生活に欠かせない、毎日のお茶になると考えています。お茶は薬として端を発し、文化として広まり、今はお茶を囲んでのコミュニケーションや健康を助けるための飲み物としても利用されています。会員の皆さまがそれぞれの取り入れ方で、“お茶のある暮らし”を楽しんでいただけたらと願っています。
(西製茶所 西 龍介)