ネパリ・バザーロ、 製油工房「椿のみち」(岩手県陸前高田市)
椿の花は陸前高田の希望。椿油を街の誇りとして育てたい
陸前高田市は自生している椿の北限の地といわれ、市内のいたるところで椿を見ることができます。特に海沿いの地区に集中しています。椿は塩害に強く、津波被害の多いこの地では、家を流されないようにするために、先人たちが植えたのではないかという人もいます。とても固い木で、幹から折れたり、倒れたりすることはほとんどないため、防風林となり、また根が深く真っ直ぐ張るので、土砂崩れを防止する土留めにもなっています。さらに生活に根ざしたものが、椿の実から採れる油です。
かつて私たちは、実が収穫できる秋を心待ちにしていました。集めた実を町の製油所に持って行き、搾ってもらいます。椿を持たない家には、でき上がった油をおすそわけする習慣がありました。クセのないさっぱりとしたおいしい油で、高田では代々、年間を通し家庭の食用油として使ってきました。冬になると、どこの家庭でも椿油を使ったけんちん汁を味わったものです。1960年代、当時の人口4万に満たない市内に、製油所が4軒あったそうです。しかし、安く手軽に買える油が出回ると、椿の実を収穫する人は少なくなり、残った製油所は1軒だけ。そこも震災被害により廃業してしまいました。
大震災で大切なものをたくさん失いましたが、人との出会いも生まれました。ネパリ・バザーロの土屋さんとの出会いは、陸前高田出身である私が、障がい者などいろんな人たちが働ける居場所を作りたいと、初対面にもかかわらず厚かましく支援を願い出たのがきっかけです。そして震災後、残って咲いた椿の花が希望に見えたこと。その椿油をできることなら搾って、高田の椿油を守りたいと話しました。長期的視野で支援を考え、現地に雇用創生の場として2012年11月に製油工房「椿のみち」を建設し、運営を開始しました。
工房の製油方法は、多くの人が関われるように、できるだけ手仕事にこだわっています。その中で最も時間がかかるのが、茶色の固い殻を取り除くことです。その際に外からは見えない傷みも取り除き、きれいな黄色の実だけを加熱しないで搾っています。生搾りは効率は悪いですが、口の中に入れても油特有のまとわり感がなく、甘い味がします。こうして惜しみなく手間隙をかけ、品質にこだわりながら、陸前高田の誇れるものの一つとして、次世代につなぐ油つくりをしていきたいと思います。
(ネパリ・バザーロ 製油工房「椿のみち」 武田 景子)