小麦品種「つるきち」との出会いは、2016年7月におこなわれた「北海道小麦キャンプ in オホーツク」で北見農業試験場の方から説明を聞いたことがきっかけです。
「つるきち(旧系統名:北見85号)」は、2012年に優良品種となった北海道で初めてのラーメン専用小麦品種です。超強力粉の「ゆめちから」と中力粉の「きたほなみ」の良いところを合わせもち、ラーメンにした時の「つるつる」感と力強さが最大の特徴で、食べた人に“吉”があることを願って命名されました。
この説明はインパクトがありました。小麦キャンプに一緒に参加した納入先の社長と2人、「なんとか商品化したいね、でも食べてみないとわからない」と話していました。そこで、サンプルを手配しましたが、前年の大雨でほとんど収穫できておらず、当年の秋の収穫まで待ちました。実際手に入ったのは翌2017年の春で、1等粉と2等粉をブレンドして試作。これが味、食感、香りが本当に良く、力がある麺でした。
最初の説明通り、「ゆめちから」の硬さとのびにくさ、「きたほなみ」のもちもち感の食感と香り、2つの品種の良いとこ取りなんです。これはいけると思い、製粉会社を何社か当たって手に入れることができました。当初は私たちの直営のラーメン店と指導している店で使いながら麺の品質の調整をしていきました。麺の品質も落ち着き商品化も進み、小麦粉の使用量についてもめどが立ったので、さらに「つるきち」の麺を広げたいと思い次のステップを考えていた矢先、製粉会社から「つるきち」の種子を生産していた農協が生産を中止するのであと2年でなくなると言われてしまいました。調べてみると、「つるきち」は農産物検査で外観品質が規格外となる割合が他の品種よりも高く、農家にとって収入が確保しにくいことが主な要因らしいことがわかってきました。
過去にも惚れ込んだ小麦に「タイセツコムギ」という品種がありました。うどん向きで色が黄色く、食べると甘い感じでおいしいうどんができました。ところが、さまざまな障害に弱いことがわかり、生産されなくなってしまいました。やはり、生産者の所得が十分に確保されないと品種としては残らないようです。
さらに、米、麦および大豆の種子生産の根拠となってきた主要農産物種子法(種子法)が廃止になるため、これらの種子の生産については、システムが大きく変わる可能性があります。種子法とは、一言でいうと、都道府県が大豆、麦、米の優良な品種を選定し、種子生産を責任もって実施するという法律です。これが廃止になるのでどうなるか?「つるきち」のような生産が限定される品種が生き延びる機会はあるのか?
今のところ、将来どうなるか分からないことばかり。それでも何はともあれ「つるきち」をなんとか残せるよういろいろ模索しながら挑戦していきたいと思っています。
(望月製麺所 泉田 覚)
2018年『life』140号
「つるきち」の小麦畑
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