熊野鼓動(和歌山県田辺市)


はじめまして。熊野番茶を生産しております。倉谷夏美です。私は和歌山県田辺市本宮町という山深きところでお茶を育てています。熊野本宮という世界遺産に登録されている本宮大社が近くにあり、川から温泉が湧き出ている川湯温泉の山のてっぺんでお茶を栽培、加工しています。
元々祖父母が営んでいた茶園を孫の私が継ぎました。祖父母の倉谷良造と全子は開拓団の一人として川湯の山に入り、山を開拓し、畑を作り、茶の木を植えました。その広さは7反5畝。サッカーコートとほぼ同じ広さです。当時は10軒程の開拓者がいましたが、今では私と当時開拓者の一人だった90歳のご夫婦のみ。ちなみにご夫婦は、まだ現役でお茶を育てておられます。
和歌山の茶の歴史は古く、茶の木が伝わったと史実に記載されているのは室町時代。伝説では平安時代に熊野古道を通じて伝わったされています。熊野番茶は煎茶よりも歴史が古く、庶民の間で広まり、親しまれてきたお茶です。各家庭の庭先に茶の木があり、春になると自分で番茶を作る習慣が、今も地域の中に残っています。また、和歌山には茶粥という食文化があり、私も子どものころから食べてきました。しかし、かつては本宮町茶業組合に100人以上の名前がありましたが、昨年度からJAが撤退し、お茶農家として積極的に活動しているのは私だけになってしまいました。
私がお茶農家になると決意したのは5年前に祖父が亡くなったことがきっかけです。当時、管理栄養士になろうと在学中でした。このままでは茶畑が売りに出されてしまうと思い、何とかできないだろうかと考えてのことです。またどんどん過疎化が進み、本宮町のお茶の文化が失われていくことへの危機感もあります。
亡き祖父の背中を追いかけながら、今はいろんな人から見て、聞いて、勉強しながら栽培、加工しています。まだまだお茶農家として至らない点もありますが、祖父母が大切にしてきた茶園とともに美味しい熊野番茶を追い求めていきます。幼い頃から慣れ親しんできた熊野番茶の味を再現し、祖父母の時から愛用してくださっている方にもご満足いただけるよう頑張りますので、どうぞ今後ともよろしくお願いします。
(熊野番茶茶農家 倉谷夏美)
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倉谷夏美さん(左)と祖母の全子さん

茶刈機での収穫の様子


一番茶の葉先だけを釜で炒った贅沢な番茶。釜炒りの香ばしさに、
ほろっと甘みを感じるやさしい味わいです。