藤井からすみ店 (長崎県長崎市)
シルクロードを通じて伝わった日本の伝統食材『からすみ』
三大珍味の一つとされる「からすみ」は、その形が唐(中国)の墨に似ていることから名付けられた(唐墨)と言われています。日本にはギリシャ・エジプトからシルクロードを経由して中国から承応年間(1650 年代)に伝来したとされます。当時は多くの大陸、外国文化の窓口は長崎でした。
からすみの原材料はボラの卵巣です。ボラは普段は河口部などの沿岸に生息していますが、秋の産卵期には南の海へ大回遊します。長崎は、卵を持ったボラが回遊するルートにあたり、10月上旬から11月下旬にかけてたくさん獲れます。そんなこともあり、現在、商業用(販売用)に作っている製造所はここ長崎の7 軒だけに限られています。
伝来した当初、からすみはボラではなく、サワラの卵巣が使われていました。しかし、ボラの卵巣を使ったものが評判となり、江戸時代には「天下三味」と讃えられ、宮中や幕府に献上されるようになりました。しかし現在も、地域によってはサワラ、マグロ、タラ、ブリといったいろいろな魚卵が使われています。また日本だけでなく、スペインやエジプト、台湾や東南アジアでも作られているようです。イタリアのボッタルガは有名です。
使われる原材料は、70~80cmに成長した天然の沖ボラの卵巣と長崎県崎戸の塩(海水)だけといたってシンプル。しかしその製造には、塩漬け~塩抜き~乾燥・熟成に1~2カ月の期間と職人の手間暇を要します。特に重要なのは塩抜き後の乾燥・熟成で、5~30℃と温度を変化させながら約40日間かけて仕上げます。この間、からすみの仕上がり具合を見ながら、温度管理を微妙におこなうのが職人の技です。
チーズのような濃厚な味わい、明太子やキャビアともまた違うコクと旨みがあとを引くおいしさ…。またからすみには、生活習慣病予防や老化防止に有効と言われるDHA(ドコサヘキサエン酸)が多く含まれ、身体を温め、疲労回復にも効果があると言われています。薄くスライスしたものをそのまま食べるのが一般的ですが、表面を軽く炙ると風味・香りが一層引き立ちます。またカナッペにしたり、さらにパスタなどのトッピングにするのもオススメ。
はるかエジプト・ギリシャからシルクロードを通じて伝わり、今では日本の伝統食材の一つ、からすみのおいしさを、この機会にぜひ味わってみてください。
( 藤井からすみ店 福島 正実)
藤井からすみ店の皆さん