ディ・フィリッポ

ディ・フィリッポ醸造所は、1971年に私の両親が始めました。私がここで働き始めたのはちょうど醸造学を修了した20歳の時、1986年からです。1994年にはオーガニック認証を取得し、ヨーロッパへのワイン輸出を始めました。そして2009年からはビオ・ディナミ農法、馬耕、そしてアグロフォレストリーの手法も取り入れました。今回は、これらの新しい取り組みについて簡単に説明します。
■ビオ・ディナミ農法:シュタイナーによって提唱された有用微生物を使いながら土地を肥沃にするという考え方の農法です。さまざまな天体の作用も農作物の栽培に取り込んでいくなど、非常に複雑なため、他の取り組みとはまた別で扱う必要があり、少しずつ取り入れています。
■馬耕:オーガニックや、ビオディナミでぶどうを育てると、どうしても畑にトラクターを走らせる頻度が上がります。そうすると土が踏み固められてしまうため、できれば頻度を下げたい。その解決策が馬耕でした。馬耕は50年前に廃れてしまったものですが、当時より装備品も、技術もより良いものになっていると思います。現在ディ・フィリッポには9頭の馬がおり、シフトを組んで交代させながら使っています。
■アグリフォレストリー:これも最先端でも何でもない、昔からあったけれど、廃れてしまったテクニックです。アグリフォレストリーは、同じ畑の中で複数の作物や動物を育て、それら作物、動物間の相乗効果を利用する事で、資源の節約と生産効率の向上をはかります。ディ・フィリッポでは、窒素を生みだすマメ科植物や、根で土を耕すイネ科植物を栽培しています。しかし、最も重要なアグリフォレストリープロジェクトは、ぶどう畑でのガチョウの飼育です。ガチョウはぶどう畑の草を食べ、施肥する(糞をする)、そしてぶどうとガチョウの精肉、2つの物が生産されます。これによって肥料が節約でき、肥料の製造に使用する石油も節約できます。また、畑の草を食べて育つガチョウの肉は非常に品質が高く、オメガ3含有量も高くなります。
このアグリフォレストリーは、「自然農法は反収が低い」というイメージを払拭するもので、小規模農家にフィットしたテクニックだと思います。
このようにオーガニック農法は最終目的地ではなく、次のような目標に達するための通過点なのです。
・おいしいワインを作ること。ワインの品質を決める最大の要因はぶどうであり、畑での一つひとつの作業がワインの出来を左右します。特にサグランティーノやグレケットのような地元品種は、栽培方法に非常に敏感です。
・土地を肥沃にし、その状態を保つこと。これがおそらく、工業型農業との最大の違いです。オーガニック農法は土地を肥沃にし、生命力(微生物や有機物)を高める一方で、工業型農業は作物の製造能力を高め、化学物質によって土地を貧しくしていく。
・農業における主役を「人」に戻すこと。化学物質や機械を増やせば労力は少なくて済むが、その品質は下がります。
ディ・フィリッポは、これらの目標に向かってこれからも少しずつ歩みを進めていきます。
(ディ・フィリッポ醸造所 ロベルト・ディ・フィリッポ)

右がロベルト・ディ・フィリッポさん
ディ・フィリッポ
グレケット白2016
固有品種「グレケット」100%の白ワイン。
青リンゴやハーブの豊かな香りと特有の酸味が印象的です。
辛口 酸味:やや強
ディ・フィリッポ
サグランティーノ赤2012
チェリーシロップやコーヒー、若干のスパイスなど複雑な香り。
タンニンも甘味も豊かでスケールの大きな赤ワイン。
辛口 渋味:強