菓歩菓歩(京都府船井郡京丹波町)その3

菓歩菓歩は、京都府北部の京丹波町(旧和知町)にある小さなカフェを備えたお菓子工房です。自然豊かな山々に囲まれ、由良川をそばに眺める工房では、有機栽培・無農薬など生産者の顔が見える素材を厳選したシンプルなお菓子を日々作っています。
菓歩菓歩の近所に山内善継さんという栗の生産者さんがおられます。かねてから地元の栗の生産者さんの間では、「山内さんの栗はとても大きく、ひとつのイガに3Lが3粒はいる」とか、「大きさだけでなく味が濃くておいしい」と評判でした。私も一度使ってみたいと思ってはいたものの、高価で値段が合わなくて断念していました。
ところが2年前のある日、「うちのお爺さんの栗を使っておいしいお菓子を作ってくれませんか」と、善継さんの息子さんのお嫁さんが相談に来られました。「一度、食べてみてください」と黒く艶のある大きな栗を持って。
善継さん曰く、「“顔の見える”方とつながりたい。これまで農協に出してきたけれど、自分の作った栗が誰が作ったのかもわからないように一緒くたにされ、誰がどうやって作った栗なのかも伝えられることもなく、どこで、誰に売って、どうやって食べたのか、おいしかったのかさえ知らされない、わからないままこの歳になってしまった。この栗を作り続けてきた人生後半、自分のやってきた栗作りがこれで良かったのか。この栗は本当においしいと思ってもらっているのだろうか」など、ざまざまな想いが交差するのだそうです。そして「この栗を食べて、“おいしい”と喜んでいる顔が見え、声が聞えてくれば、作り続ける励みと原動力になる」と。そんな想いを伝えに来てくださったのです。
実は私は毎朝、自宅から工房までの通勤途上で山内さんの栗畑の前の道を通ります。暑い日も寒い日も、雨の日はカッパをきて何らかの作業をされ、雪の日は栗の枝が折れないように除雪作業。日々の善継さんの姿を見て背中がピンとなる思いをし、和知の里を守ってこられた方々に尊敬の念を感じていた私は、このお話を聞いて、この栗を使っておいしいお菓子に作りあげて、おいしいと喜んでいただきたいと思いました。
確かにけっして安くはない、高価な栗です。しかし和知の栗作りは、次の世代にも残していきたい大切なこと。「おいしい栗で和知の里を豊かにしていきましょう。この和知の里においしい栗が豊かに実り、若い世代が希望を持って就農に来てくれることを願い

ましょう」と、善継さんは自宅の前に広がる栗畑で農作業をしながらおっしゃいました。この想いに共感してくださる方はきっといる、そして広がっていくはず。私は、そのために「栗の匠、山内善継の栗の御菓子」を作ろうと自分の中で決意をかためました。
(bio sweet’s capocapo 菓歩菓歩 石橋 香織)
2018年『life』60号
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お菓子作り
菓歩菓歩(カポカポ)
渋皮栗のチョコスティックケーキ
栗の匠が育てた極上の丹波栗渋皮煮を
オーガニックチョコレートの生地にちりばめました。