遠忠食品(東京都中央区)
東京湾を再び豊饒の海に
子どもの頃は日本橋の佃煮工場の2階に暮らし、住み込みで働く人々と一緒の大家族。そのような生活になんとなく豊かさを感じていたような気がします。
佃煮屋の家業を引き継ぐ中で、地元・東京湾の原料で作っている佃煮が少ないことに愕然としました。どうしたらできるのか?東京湾の漁師たちと付き合えるのか? いろいろ考えました。そんな折、千葉県木更津の海苔漁師グループと知り合うことができ、生海苔を分けてもらえるようになりました。入れ物、計り、現金を持って行き、海から上がってくる漁師を待ち、その場で支払いをして工場に持って帰るのが毎年恒例に。その甲斐あって念願の“江戸前”の海苔を使った佃煮を作ることができ、さらに貝や昆布、わかめなどの漁師ともつながりができる中で、9種類の「江戸前でぃ!シリーズ」が誕生しました。
私たちの他にも東京湾を豊かにしたいと考えている人たちがたくさんいます。毎年恒例になった東京・お台場での海苔作りは、小学校5年生の食育、環境教育に発展しました。小学生が海苔を摘み、スノコで乾燥させて板海苔にし、できた海苔を家に持って帰って焼いて食べる。これらの取り組みは、一過性のイベントではなく、漁師、NPO、教育機関、ボランティアなどたくさんの人々をつないでいっています。
高度成長期の埋め立てに伴い、かけがえのない生態系を破壊してしまった結果(もちろんそれだけではありませんが・・・)、東京の食料自給率は現在1%しかありません。子どもたちが泳ぎ、魚介類が豊富に水揚げされる豊饒の海に東京湾が再び戻るよう、志を一つにする人々と取り組んでいきたいと思います。
(遠忠食品 宮島 一晃)