草野食品


「お麩を知ってる? 食べてます?」スーパーの棚にあふれる食品の中から探し出すのは容易ではない。あってもごくわずか。「あーぁもったいない」日本の隠れたお宝食材探しの皆さん!灯台下暗しですよ。
麩はわが家の常備食材のひとつだ。定番のすき焼き、味噌汁、煮物、和え物、炒め物。チーズとの相性も良し。何かとお役立ちである。
で、この麩とは何か。簡単にいうと小麦粉の中からたんぱく質(グルテン)を取り出し、水・小麦粉を加えて練り、寝かせた生地を蒸したり焼いたりしたものだ。
言うは易しだが、出来上がりの善し悪しを左右するのはまさに職人技。草野食品の中田善行さん曰く「グルテンは生きもの。気温、水温、小麦粉の状態に気配りし、均一にきめ細かい網目に仕上げるには熟練が要る。一番気を使う部分であり、良いお麩づくりはここから始まる」。実際、触らせていただいたグルテンは、つるつる、もちもちでよく伸びる。伸びても均一の網目は崩れず美しい。
麩の歴史を紐解くと、大和朝の頃に中国から禅僧により伝えられた。動物殺生が禁じられていた日本、仏教と共に全国的に広がりたんぱく源として貴重だった。時経て今は肉食大好き日本人、麩の価値は精進料理やお椀の飾り程度の存在とは残念である。一方、海外ではジャパニーズ・フェイクミートとして超人気上昇中の食材。マクロビやヴィーガン、環境問題からも、動物性たんぱく質から植物性たんぱく質への転換が後押ししている。麩は低カロリー高たんぱく、しかも求めやすい価格だ。
さて、麩の持つ力は、日本の歴史上経済と文化の普及という点でも見逃せない。日本各地で食されてきた麩だが、焼き方の違いや名称も使われ方も多彩だ。地域的には北海道から沖縄まで。麩の伝播ルートは北前船の寄港ルートそのものである。北海道からの最終寄港地であった大阪は最大限の恩恵にあずかった。北の昆布、近海の鰹、いりこ、醤油など「うまいもん」を合わせただし文化が花開いたのだ。麩はだし汁をよく吸って抱き込み、和のみならず、どんな食材とでも調和する。肉の代替品という席に甘んじることなく、日本の食文化の正道を行く食材としてもっと愛されていいはずだ。
今回訪れた草野食品は創業80年超。食の都大阪で伝統の麩づくりを守ってきた。国産小麦を調達し、グルテンづくりから麩までの一貫生産をつらぬく数少ない企業である。近代的で衛生管理も徹底された工場。そして「感性と熟練の技が、ものづくりの命」という信念がしっかりと感じられた。麩の将来を託したい。
2022年『Life』100号

職人がひとつひとつ手作り
草野食品
職人手焼棒麩
小麦グルテンまで国産です。好きな大きさで思いっきりお麩を楽しみたいという声から開発しました。