はるこまや


この10月、私たち株式会社はるこまやは会社設立30周年を迎えました。個人商店だった五月女商店から法人化し、株式会社春駒味噌醸造、株式会社はるこま屋、そして株式会社はるこまやと社名を変更してきましたが、この間、実に多くの方々とかかわり、泣き笑いを共にし、歩み続けて来られたこと、しみじみとありがたく思っています。創業からは90年近くになるのですが、幾度も廃業の危機を経験しながらもいろんな時代を乗り越えてきたのだと改めて感じます。
この2年近く、いろいろと大切なことにも気づかされた日々でもありました。マスクに隠れてしまった笑顔。読み取れないまなざし。なにが正しかったのかはわかりませんが、ここを乗り越えようとしているうちに確実にふたつトシを重ね、それだけの時間が流れてしまいました。
人ひとりができることなど、たかが知れているかも知れません。しかし、人にしか癒せられないことがあることも確かだと思います。
うまい味噌を作るために大切なものは、良質の原材料、それを生かす技術、そしてうまさを育てるための充分な時間。この3つだとずっと考えてきました。しかし、もうひとつ。それを購入してくださる方の存在が大きな要因になっていることに気づかされました。そもそも、買っていただけなければ再生産していけませんし、待っていてくださる、支持してくださるお客さまがいてこそ、うまい味噌を作るためのエネルギーが生まれるのだと知りました。
この間、毎月いただくご注文に、どれだけ励まされ、助けられたことか。
原料を作る人、それを加工する人、それを届けてくれる人、そして食べてくれる人。そのどれかひとつが欠けても成り立ちません。誰もが、大切なひとりです。
味噌は20℃後半から30℃ぐらいの温度帯でないとうまく発酵できません。では、それ以下の温度帯は必要ないのか、といえばそうではないような気がしています。寒い厳しい季節を過ごしたものはうまさが引き立っているように感じるからです。温度帯によって活躍するバクテリアが違う、というとらえ方もあるようです。どんな状況でも、それぞれが、それぞれの役にたっている。
同じように、人生、暑い日もあれば凍えるような寒さもある。そのすべてが自分を育ててくれている。
「三十路にして味噌屋になります」と口にして30年。あのときまでと、あのときからが同じくらいの時間を過ごしてきたことになります。国産の原材料、ノンケミカル。それは私どもにとって特別なことではなく、声高に叫ぶことなく、これからも当たり前のこととして取り組んでいきたいと考えています。これまでいただいたご縁と日々のご愛顧に感謝しながら、おいしい味噌をお届けできるよう、これからも努めて参ります。

(はるこまや 五月女盛一)
2021年『Life』510号

糀のひとつぶひとつぶを祈るように掌で崩しながら育てる「合掌造り」
はるこまや
はるこま味噌
栃木県産大豆とおきたま興農舎の特別栽培米を、8ヶ月以上かけて仕込んだ味噌。
はるこまや
あるちざん(米味噌)
職人の意味を持つ味噌。北海道産大豆、山形産米、粟国の塩を使い職人の技術をつぎ込んだ逸品。