八木澤商店

(岩手県陸前高田市)


数々の試練を乗り越え復活・誕生した「奇跡の醤」

海・山・里からの便り
2015年
『life70号』



 

 

 


 震災から4年近く経ち、陸前高田では復興の鎚音がやっと聞こえ始めました。しかし2019年までに社会インフラを整備する計画なので、まだまだ時間がかかるようです。
 八木澤商店では昨年秋に「奇跡の醤」を搾ることができました。この醤油は数々の奇跡と、多くの方々の賢明なるご助力で復活した、八木澤商店のDNAとも言うべき醤油です。
 遡ること震災の約1ヶ月前、岩手県釜石市にある水産技術センターと北里大学の微生物研究所から「八木澤商店の蔵つきの微生物の中に、優良なアミノ酸を生成するものがあるという分析結果が出た」との連絡をいただきました。これをきっかけに、共同研究用として4kg の諸味(もろみ)を研究所に預けました。そして、この諸味こそが奇跡的に守られたのです。八木澤商店が津波で建物・設備を全て失い、研究所も地震で多くを失ったにもかかわらず、です。この200年の伝統の蔵のDNAとも言うべき諸味を種として、以前の八木澤商店の味を復活させる試みが震災の直後から始まりました。1年半の間研究機関で守られ、培養された諸味を、新工場の最初の仕込みに使いました。それから1年8ヶ月を経て「奇跡の醤」として復活することができました。
 震災後、これまで多くの方々の支えのもと、数々の試練を乗り越えることができました。そして2年前に内陸部の一関市大原に新工場を建設して以降も道のりは平坦ではありませんでした。沿岸部にあった元の蔵とは違い、山あいの新工場は5〜6度は気温差があり、冬は水道管などの配管があちこちで凍結して破裂。実質、仕込みは3月下旬までできませんでした。一方、全国の皆さまからは、まだ開けていない震災前の醤油を「この味を忘れぬように」と、励ましのお手紙とともに送っていただきました。今回「奇跡の醤」を搾り、震災以前の醤油と利き比べした時に、感謝の気持ちと安堵感で心が満たされました。「奇跡の醤」は、200年の伝統を受け継いだ紛れもない八木澤商店の味です。料理の素材の味を引き出す力のある醤油だと自負しております。ぜひ一度お試しください。
 八木澤商店はこれからも、安全・安心でおいしい調味料をお届けします。末永いお付き合いをよろしくお願い申し上げます。   

(八木澤商店 河野 通洋)


本醸造の濃口醤油
3・11震災で奇跡的に守られた諸味を培養し、それをタネとして仕込んだ丸大豆醤油です。
八木澤商店
奇跡の醤(ひしお)

 

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