島根県江津市桜江町は、江の川の中流域に広がる典型的な中山間地で、戦前は生糸生産に欠かせない養蚕が盛んで桑畑も多く広がっていました。しかし、戦後は安い海外産生糸が増えたことに加え、化学繊維の普及で壊滅状態になり桑畑も放棄され最盛期に比べて人口も半分以下に減ってしまいました。ちょうどその頃、都会で事業を営んでいた私の父が第二の人生を自然の中でゆっくり過ごしたいと桜江町に移住してきました。そして、桑の遊休化と過疎化の実情を見る中で、行政から依頼されたこともあって1998年に桜江町桑茶生産組合を立ち上げることになりました。放棄され遊休状態の桑園を桑茶の畑として活用することで、雇用を拡大し過疎化を食い止めることが目標でした。

桑は葉も実も、手作業で収穫します |
桑茶は、鎌倉時代に中国から入ってきたのが最初とされています。当時から痛風や糖尿の漢方として利用されていたようで、古くからその効能が知られていました。父が生産組合を立ち上げた頃に、この桑茶に含まれる成分について血糖値の上昇を抑制する効果や、カルシウムやマグネシウム、鉄分などのミネラル分も多く含まれていることなどが明らかになってきました。加えて桑の葉は蚕の餌として利用されていたため、その畑は長年農薬が使われたことがありません。私たちは、この貴重な畑で育てた無農薬の桑の葉を安全でおいしい桑茶に仕上げるために、独自の技術で加工工場を作りました。更に私たちと、島根県産業技術センター、島根大学医学部との共同研究により、桑茶に含まれる新たな成分が肝機能改善や動脈硬化に効果があることが分かってきています。
深い紫紺色の桑の実 |
また桑茶だけでなく、1年で5月末から6月上旬の約10日間ほどしか収穫できない貴重な桑の実を使った「桑の実ジャム」も作っています。桑の実はマルベリーとも呼ばれ、抗酸化物質のアントシアニンが多く含まれ、紫色の果汁は手や洋服に付くとなかなか取れないほどです。糖度が高い物は18度近くあり、熟すと濃い紫色になります。熟す前の鮮やかな赤い実は酸味が強いのが特徴です。私たちは、桑の葉同様すべて手作業で収穫し、濃い紫色の実と鮮やかな赤い実をブレンドして、美味しいジャムに加工しています。
こうして、かつて30ヘクタールあった遊休桑園は2005年にすべて解消し、現在は全体で120ヘクタールの畑を管理し、全体では雇用も60名を超えています。桑だけでなく、大麦若葉やケール、ハーブ等の有機栽培を行うなど、地元だ

けでなく、たくさんの皆さんが関わり、互いに支えあいながら活動が継続してきています。これからも地元・島根の自然を活かした安全でおいしい食べ物づくりを通じて、地域の活性化に向けて努力していきたいと思います。