佐藤マリ子さん

(宮崎県高千穂町)


土呂久の柿の木は命の大切さを
訴えてくれています


2015年
『life20号』

 



 土呂久の山が色づくと、いろいろな作物や秋の果実も収穫期を迎えます。里芋にむかご、大豆、小豆、甘柿、渋柿、カボスに柚子。秋の収穫物はほとんどが保存食。寒さや虫から守るためいろいろと手を加えなければなりません。里芋は土深く埋め、大豆や小豆は脱穀後、唐箕という昔ながらの道具でごみやほこりを除き、虫食いやくず豆を拾い出し、乾燥させて、保存します。渋柿は皮を剥き、軒先につるして干し柿に。柚子は1年分のマーマレードに加工するために下ごしらえして冷凍します。大忙しの秋ですが、たくさんの山の恵みをいただき、幸せいっぱいです。
 かつて土呂久には鉱山があり、1920年から1962年まで、亜砒酸(砒素)が製造されていました。亜砒酸製造により、大気、水、土壌が汚染され、自然界の動植物、農作物、家畜、そして人体にまで、被害は及びました。私の夫の両親、叔母も砒素中毒の認定患者で、28年前、嫁に来たときにはすでに亡くなっていました。鉱山が操業されている頃、柿も柚子もカボスもほとんど実をつけなかったと聞きました。実りの秋の喜びなどみじんもなかったことでしょう。我が家の田んぼのすぐ下に1本のシンボルツリーがあります。十連寺という柿の木です。樹齢200年近い大木で、秋には甘い柿を枝いっぱいにつけます。鉱山が操業中は、十連寺柿はほとんどならず、伐採の危機もありました。しかし、鉱山が止めばきっとまたたくさんの実をつけてくれると、夫の祖母は必死でこの木を守ってくれました。祖母の言ったとおり、閉山後はたくさんの実をつけるようになりました。鉱毒の中を生きつづけた十連寺柿の木は土呂久の悲劇を伝え、命の大切さを訴えてくれています。   

(佐藤 マリ子)

柚子を粗糖だけで炊きました。
素朴で、やさしい甘み。
佐藤マリ子さん
ゆずマーマレード
土呂久の山で、無農薬で育てた柚子を使って作りました
柚子皮を煮て、グラニュー糖を
まぶしました。苦味が
なく、さわやかな
香りと味わい。
佐藤マリ子さん
ゆずの砂糖菓子


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