紀伊半島大水害から四年。
熊野発の新しい品種のもち米と
新たな歩みを進めます  

熊野鼓動

(和歌山県田辺市)

 




海・島・里からの便り
2015年
『life410号』

 熊野鼓動は今年で設立14年目。地元のおばあちゃんたちが味噌や梅干、しそドリンクなどを作る加工グループをそのまま引き継いできました。メンバーはそれぞれが有機野菜や自然食品の流通業務に携わった経歴のある大阪・東京からのIターン者。地元の人たちの生活の中にある“当たり前”のものが、都会出身者の私たちにとっては魅力的な素材でいっぱい。伝統を守りながら、農薬や添加物に頼りたくないという思いを合わせた商品作りで、どきどきわくわくするような熊野の息吹をお届けしたいと思っています。
 そんな取り組みも軌道に乗りかけた10年目直前の2011年9月、紀伊半島大水害に見舞われました。熊野鼓動でも稲刈り直前だった田んぼは壊滅し収穫はゼロ。味噌加工場も水没し、倉庫は半壊。道路もがけ崩れで町は孤立。幸い従業員は家族も含めて全員無事で、メインの作業場も稼働できたので、ライフラインが戻った後は少しずつ製造を続け、林道を通ってどうにか商品を出荷し続けました。泥が流れ込んでがちがちに固まってしまった田んぼは、地元農家さんのおかげで春にはなんとか田植えができるようになりました。
 その頃、国の研究機関から、新しい品種のもち米を栽培する機会を得ました。早速、2013年春に一部の圃場で試験栽培してみたところ、背がちょっと高いものの、収量が多く、もちに加工した際にねばりがあり、やわらかさが長持ちする、という特徴をもっていました。「どこにもなかった特徴あるもち米だから、熊野発で新しい『釜餅』が作れるかも!」と夢を感じました。  


熊野本宮の鳥居をのぞむ、
もち米の田んぼ(奥の背が高い方)

 1年目、2年目はあくまでも試験栽培として旱魃や台風などに悩まされながら、施肥を管理して土壌分析、土壌改良し、収量分析を繰り返し、この新しい品種の持つ特性を引き出すにはどうすればいいか、生産者とともに模索してきました。そして、どう加工すればもっとおいしいか、作っては食べ、作っては食べの日々。
 そして3年目の今年、ついに本格栽培の許諾をもらい、いよいよ熊野生まれ熊野育ちのもち米が誕生です! 雨量が多く日照時間が少なく、獣害にも悩まされる山間部の熊野地域には、これといった農産物がありません。今回のもち米のように地元に根差した作物ができれば、農家やJAの協力で作付を増やすことができます。それは休耕地を削減し、農家の安定した収入へつながります。さらに原料が安定供給され、加工することで雇用を生み、商品を地域や都心部などへ広く流通させることで経済効果を地元へ還元することができます。
 もち米には熊野にちなんだ名前をつけてもらいました(もうすぐ発表できそうです)。私たちはこの3年間、新しい熊野のもち米の誕生を見守ってきました。いよいよこの秋から、このもち米をブレンドした新しい「釜餅」として皆さまのもとへお届けできます。
 そしてこれからは熊野鼓動も生まれ変わるような気持ちで、もち米と一緒に育っていきたいと思います。

(熊野鼓動 亀岡佳奈)


 

とろけるお餅で粒あんを包みました
ふんわりよもぎ餅に粒あん入り。もち米の粒々が残っていてとろりととろける食感が持ち味。きな粉付。

熊野鼓動
熊野・釜餅
やわらかい食感の釜餅に古代米を加えました。ほんのり甘いつぶ餡との相性抜群です。

熊野鼓動
熊野・古代米入釜餅

 

伝統の釜炒り番茶。 釜餅と一緒にどうぞ

一番茶の葉先だけを釜で炒った贅沢な番茶。香ばしさに、ほろっと甘みを感じるやさしい味わいです。

熊野鼓動
熊野・釜炒り番茶


 

熊野鼓動

(和歌山県本宮町)


全国唯一の「飛び地」の村、
和歌山県北山村だけで採れる
「じゃばら」

海・山・里からの便り
2015年
『life30号』

  




 「じゃばら」は全国唯一の「飛び地」の村、和歌山県北山村に古くから自生していた柑橘です。『邪気(じゃき)を祓(はら)う』がその名の語源とされ、村では縁起ものとして昔から正月料理には欠かせないものです。
 この「じゃばら」、熊野の山で自然交配によって生まれたもので、1971年に専門的な調査・研究の結果、国内はもとより世界に類のない全く新しい品種であることが分かりました。見かけはユズに似ていて、11月〜12月に収穫されます。しかし、ユズと違って枝にトゲがなく、糖度と酸度が絶妙に調和し、まろやかな酸味、独特の苦味を有し、ユズやスダチなど他の香酸柑橘とは違った個性的な味わいが特徴です。
 村では過疎に悩むこの地域の産業に育てようと、住民に栽培を呼びかけてきました。当初はなかなか広まらなかったのですが、アレルギー原因の抑制が期待できるフラボノイドの成分「ナリルチン」がユズの6倍という圧倒的な量が含まれていることがわかってからは、花粉症の季節にテレビや新聞雑誌などで盛んに採り上げられ、有名になりました。一時は消滅の可能性も危惧されていましたが、次第に生産者も増えつつあります。
 私たち熊野鼓動は、北山村に程近い奥熊野の地・本宮町に所在することから、過疎高齢化に悩む地域の課題を共有しつつ、創業当時より村の取り組みに協力してきました。「じゃばら」は、柑橘系でありながら寒さにも強いという独特の性質があり、この地域の気候、環境にふさわしい柑橘です。生産者の方々と協力しながら、世界遺産の里、紀州・熊野を代表する柑橘として大切に育てていきたいと思います。   

(熊野鼓動 亀岡佳奈)


ほのかな苦みと、清涼感のある香り
じゃばらと砂糖で作った爽やかなドリンク。
3〜4倍希釈。
熊野鼓動
じゃばらドリンク275ml
じゃばら100% 果汁。
爽やかで癖のない
酸味が特徴。
熊野鼓動
じゃばら果汁
鰹、昆布、鮎などの
だしと、じゃばらの
果汁を使いました。
熊野鼓動
じゃばらぽん酢

 

 

 


熊野鼓動

 (和歌山県田辺市)


地域に伝わる味を残していきたい

  

 私たち「熊野鼓動」は、都市部においてこだわり食品の流通に携わった経歴のあるスタッフがこの地に移住して立ち上げました。生産者をはじめ、地元の人々と協力し合うことで、地域の産品を生かした食べものを製造しています。
 一昨年は大きな水害に見舞われましたが、なんとか昨年6月には創業10周年を迎えることができました。しかし、農地の放棄や限界集落など、以前からこの地域が抱える課題が解消されたわけではありません。これからもこの地域にこだわり、地元の人々と共に歩んでいきたいと考えています。
 今回ご紹介する「熊野本宮・釜餅」の原料のもち米は本宮大社の大鳥居前の田んぼでとれたものを中心に使用しています。通常のお餅はもち米をせいろで蒸して臼・杵で搗きあげますが、釜餅は釜で炊き上げ、そのまま、すりこぎで搗くというこの地域独特の製法。おはぎでも、大福でもないもち米のつぶつぶ感が特徴です。自家製のあんをひとつひとつ手作業でふんわり包んでいるからこその絶妙な食感はけっして機械では出せません。たっぷり搗き込んだよもぎの風味と、やさしい甘さのあんとのバランスが最高なので、何個でもペロッと食べられます。同じく熊野の茶葉を釜炒りした番茶を飲みながら釜餅の素朴な味わいを楽しんでいただけたらと思います。

 

(熊野鼓動 横瀬 恒人)

釜餅製造風景 スタッフの皆さん(前列左端が横瀬さん)

 

 

 

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