
▲ドゥレ生産者会会長のイ・ジンソンさん(中央・カソリック農民会の会長も歴任)とドゥレ生協のチョン・チャンギュさん(右・生産者会の事務局長も務める)
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3年前に始まった韓国のドゥレ生産者会との交流。定期的な相互往来は今回で一旦終えることになり、最後となるよつ葉訪問団に同行した。私には、一昔前は、近くて遠い「韓国」であったが、今回は近くて親しい「韓国」を知る機会ともなった訪問であった。以下は私の勝手な感想も交えた訪問記。
韓国での生協運動は20数年前に始まった。多くの人々が結集し軍事政権を倒すに至った民主化運動、それを担った農民、学生、労働者、知識人等の中から、運動の過程で生まれた関係を基にして、社会運動として展開された点が特徴的である。
工業化社会への歩みは朴軍事政権下で始まり、急速に進んだ。わずか50年足らずで日本と似たような社会となった。「漢江の奇跡」と呼ばれているが、社会の変化が速い分、問題の現れ方も速く、矛盾も大きい。ソウルとその周辺に50%近い人々が生活する大都市への一極集中状況、農村と都市の隔たりの大きさ等々。農家戸数の割合は日本より少し多い程度であるが、日本の兼業農家のような存在は少ない。農村に農業外の働き口がほとんどなく、農業を続けるか、やめて都市に移住するかのどちらかで、選択の余地は少ない状況であったとのこと。政府が音頭をとって進めた「農業近代化政策」が成功した話は聞かない。土地を離れる農民を増やしただけに終わったのであろう。工業化に最大限の力をいれながら、農業もバランスよく育てるなどという政策があった例はない。工業化社会の進展と農村の破壊は裏表の関係にある。
事業面では日本の生協に学んで始めた経緯もあり、それぞれの組織の間で交流が今も続けられている。社会の同質化が進み、共有できる課題は多い。大きく異なる点と強く感じたのは、従来根付いてきた伝統的な価値観がまだ色濃く韓国社会に息づいている点である。
もちろん、社会の土台が変わってしまっている以上、資本主義的な価値観がますます支配的になっていくのではあろうが、一方で、世界的にはその限界と多くの人々に不幸を強いる社会の仕組みだということがはっきりと意識される時代にもなっている。伝統的に形成されてきた価値観の中には、次の社会を展望する上で重要な考え方がいっぱい詰まっているのである。
最近では、生協運動が発展するに連れて、各組織の間で運動面での違いが顕著になっているとのことであった。なにを社会的課題の中心に据えて活動していくのかは運動にとって最も重要なこと。「消費者運動」としての生協運動の発展を図ろうとするグループ、そこでは生産者運動という側面は二次的な問題になる。一方、本来生産と消費は一体のもの、そうではなくなっている社会のあり方そのものを問題と考えることが重要で、そこに至る過程を批判的に検証するなかから、新たな社会の仕組みを模索するグループ、そこでは生産者の運動は一次的な課題である、に分岐しつつある。前者が主流となる中で、韓国のドゥレ生協と生産者会の活動は後者に属するグループの代表的な存在である。
ドゥレ生産者会の核となる人たちは韓国の民主化運動の際、その中核となった農民運動を担った人たちで、その活動と思想は今も健在である。ただ、そのメンバーは多くは60代となり、次の世代への継承が課題となっている。思うようにいかないのは悩みの種であるが、かといって、悲観している様子もなかった。民主化運動の歴史的な経験の深さと拡がりが楽観的?にさせるのかもしれない。2年前にBSE問題、アメリカ産牛肉自由化問題で大規模な反対行動が展開されたが、その中心をなしたのは若い人たちであったとのこと。
社会の民主化を人々の底力で成し遂げた韓国と「民主的な社会」が「上」から棚ぼた式にもたらされた私たちの社会との違いを感じ、また、人々の政治意識の違いも相当大きいのでないかと思われた。
農民運動の先進地域でもある原州市(ウォンジュ市、人口31万)では自治体が率先して、生協、農民組織と連携して、「地産地消」「学校給食における食育」の取り組みを進めている。韓国の中ではまだ少ない事例だとのことであったが、その自治体のリーダーは民主化運動を共にした人たち。民主化運動の歴史的な経験が根強く社会の底流にあることで、今後、さまざまな場で、新鮮な試みが開花していくのではないかと予感させるものであった。最近、行われた地方選挙においては、「市場経済化」をより一層進めようとする現大統領の与党は敗北し、現政権の政策にNO!を突きつける地域が多くあったとのことである。
課題は国境を越えて共有し、その克服への試みも国境を越えて共有されていく必要がある。ドゥレ生協と生産者会の活動を筆頭に、今後、韓国での生協運動が私たちに新しい刺激と運動の方向にヒントを与えてくれる局面が増えてくることと思う。そのことを素直に期待したいと思った韓国ドゥレ生産者会訪問であった。
最後に、来年韓国で世界有機農業大会が開催される予定。しかし、開催が決定した後に、開催地に予定されていた場所を現大統領が一大公園に開発するという人気取り(大統領は。本気でそう考えているらしい)計画が持ち上がり、開催が危ぶまれている。その場所はソウル近郊で大河漢江の上流域。南と北からの流れが合流する地点に出来上がった豊かな土地。そこで、40年近く有機農業が営まれながら同時に水源を守ってきた経緯がある。農民の強い反対運動が続くが、強制収用がいつ始まるか、という緊迫した状況になっている。無駄な開発で、貴重な自然・農地が破壊されないことを願うばかりである。(関西よつ葉連絡会事務局 鈴木伸明) |