〈2016年 第106便 -1(2016.6.13)〉
【能勢農場から】量ではなく質を問う社会へ 今年で40年目を迎える能勢農場
今年で能勢農場は設立から40周年目を迎えます。40年前というと、日本は高度経済成長期の真っ只中、世の中には物がたくさんあふれ、多くを所有することが「豊かさ」とされていた時代に、物ではなく人にこだわり、人間の自立と再生、そして解放を旗印に、多くの若者が集い、農場建設がスタートしました。その後、農場建設に携わる若い人たちがここを離れ、多くの人たちとの関係を拡げながら、関西よつ葉連絡会や北大阪商工協同組合など、組織としても発展し、能勢農場も能勢食肉センター・北摂協同農場・能勢産直センターと分社化を進めながらともに発展し、畜産と移動動物園がもう一つの事業基盤となりました。現在、能勢農場で働く常駐者は13人です。そのうち、50代を超えているのは2人で、残り10人のうち20代が半数を占めています。若返りといえば近年になく平均年齢が低くなっていますが、設立当時高い理想を掲げて集まった若者と違い、動物や子ども、自然に携わる仕事が好きで集まった若者ばかりです。
仕事は3Kを極め、協同生活が基本となっている農場に、ただ動物や自然が好きというだけで何故に集まるのか。
今の世には物はすでに飽和状態、変わって情報があふれかえっています。時の流れは速く、それに乗り遅れまいと勝組を目指し、遠い未来のことよりも目の前の金稼ぎに明け暮れる世にあって、いま能勢農場で働く若者を見ていると、ただ自然や動物が好き以上の、自分たちのこれからの展望を考える基礎なるものを日々の労働と向き合う中で思い悩み、少しずつ積み上げている姿は、世の中は決してお金だけじゃない価値観や人生観を身に付けようとしているなと感じます。そんな時、「農場憲章」という理念の実践と経済活動の両立という決して容易ではない営みの場を何のために創造し、40年という時代の潮流を乗り越え、受け継がれてきたのかを改めて考えさせられています。
そんな能勢農場の今の事業の柱となっているのが、畜産です。設立当時の日本の畜産といえば、それは牧歌的な現場でせいぜい500頭ぐらいの中小規模の畜産農家が全国に点在し、農村では一家に一頭の牛が飼われていた地域も多くありました。そんな牧歌的な畜産も高度経済成長の波に乗り、飛躍的に拡大していきます。しかし、2000年に入り、世界中に広がったBSE発生を皮切りに、さまざまな出来事を経て、日本の畜産は徐々に後退し、現在、全国の飼養頭数は、ピーク時から2~3割減ってしまった、といわれています。
こうした事態を考えるに、「東日本大震災」や「熊本地震」はやむを得ないとして、BSE発生の事例を振り返ると、人間が経済効率や合理化を強引に進めた結果、草食動物に動物性タンパクを与えるという、動物の生理を越える身勝手な振る舞いに対し、自然から強制的にブレーキが掛けられたように感じています。
にもかかわらず、畜産業界ではこれまで減少した飼養頭数を回復させるべく、人工授精を全国に普及させています。これは、ホルスタイン雌牛に和牛の受精卵を移植し、飼養頭数の増加を図ろうというもの。確かに高齢化する和牛繁殖農家にとっては、受精卵を提供するだけだから労力は減るし、ホルスタインも搾乳には妊娠が必要で、どうせなら高値の和牛の方がいいなど、一石二鳥のようにも思えますが、現場からは「いくら何でも人間が介入しすぎ、倫理観として受け入れられない」という根強い意見もあります。果ては体はホルスタインなのに、子宮だけが和牛という“ハイブリッド乳牛”の開発も進められているとかいないとか。「いったいどこまでやんねん」という思いがします。人間が誇る科学技術も生物の倫理を越えてしまっては、いくら経済成長が大事でも必ず自然からのしっぺ返しがある。BSEからの教訓を今こそ活かし、転換する時期だと思うのですが、なかなかそうはなっていない。今、政治が主導している経済成長もいくらお金をばらまいても、結局は焼け石に水です。GDPが1.7%上昇して「上がった、上がった」と新聞紙上で騒いでみても、その実感をどれだけの庶民が感じているだろう。
そんな時代のこれからを考える時、人口は減少の時期に入り、高齢化が進む現代にあって、経済成長はもはや過去のものとなり、成長という量的な時代から成熟という質的な時代への転換が求められていると感じています。
昨年から能勢農場では、放牧の事業化に向けた試みをスタートしました。でも観光牧場を作ろうということではありません。荒廃した山林を緑豊かな土地に牛力を活用して蘇らせる。「牛をただ肥らして、肉として生産する」以外に、人間社会の中で牛がもっと多様な役割を持ち得ないか、それで事業として成立できないか、つまり量から質への転換を試みる取り組みです。まだまだ時間はかかりますが、こうした取り組みを通して若い世代の人たちと一緒に、これからの能勢農場を創造しながら、世代を超え、受け継がれる農場であり続けたい、と思います。
(能勢農場 寺本 陽一郎)

放牧の事業化に向けた試験放牧
「熊本地震」お見舞いと義援金の呼びかけ
4月に熊本県を中心に連続して発生した大地震は、これまで経験したことのない規模となり、今も多くの人が被災しています。九州地方には「農場だより」の読者だけではなく、多くの生産者の方々や、我々と深い関係にある方々もたくさん居られ、胸を痛めております。皆さまのご無事と、一日も早い復興を祈願しております。
なお、今回の「熊本地震」に対する義援金カンパを呼びかけたいと思います。ぜひ、皆さまの積極的なご賛同・ご協力をお願いします。
■義援金カンパ振込先
郵便振替 00980-5-181511 関西よつ葉連絡会
※払込取扱票の通信欄に「熊本地震カンパ」 と明記してください。

【能勢食肉センターだより】ハム工場左脳化計画
先日、ハム工場で講師を呼んでハム・ソーセージ製造講習会を開催しました。今年の目標に掲げた、《ハム工場左脳化計画》実現のための講習会です。ハム・ソーセージを科学的に理解し、理論的に製造する。経験することで蓄積されていく知識と、学習することで得ることの出来る知識を分け、経験や勘を頼りにした試行錯誤を不用なものにすることが目的です。長年この仕事にかかわって、「毎日が発見の連続です」なんて恥ずかしくてとても言えたものではありません。
講師に迎えた竹下氏は、経験、実績、知識とも申し分の無い人物で、本来なら店を構えて、ハム・ソーセージの世界を牽引するほどの実力の持ち主なのです。ところが体調を崩され、第一線を引き、現在コンサルタントとして活躍中です。
講義内容は、第1回目ということもあり、「初心者に向けての内容で」とお願いしました。原材料の豚について、豚種、部位ごとの特徴、ヨーロッパと日本との屠殺方法の違い、それによってその後の加工に違いが生ずることなど、主に加工に至るまでの工程についての講義で前半が終了。後半は竹下氏がドイツでの修行中に学んだこと、経験したことを中心にお話をして頂きました。
初心者向けということもあり、理論に裏打ちされたハム工場に変貌を遂げる!─といったところまでは、当然ながら至ってはいませんが、今後も講習会の内容を中級、上級と上げていき、《ハム工場左脳化計画》を実現したいと考えています。
(「能勢の里から」ハム工場 佐藤 雄一)
入社して8年目になりました
食肉に入社し、早8年目の井上です。なんだかあっという間に過ぎました。高校卒業後4月から働き出して、色んな事を学び、経験もしました。1年1年と少しずつ工場の皆さんに教えていただき、技術もついてきたと思います。まだまだな部分もありますが、日々頑張ってます。また後輩たちも毎日頑張ってくれてますので、自分が学んだことはできる限り教えていき、後輩たちの技術向上になればいいなと思います。
また、以前書かせてもらいましたが、色々な会議の方にも出させていただいてます。まだまだ会議の中での発言は、あまりできてません。正直、苦手です…。今はそれでもいいのかもしれませんが、年月がたってくると自分から話しかけないとダメな場面が出てくると思います。少しずつでも話せる(提案)できるようになりたいし、これからも色々なことを任されていくと思いますので、無理なく自分のできる範囲でこれからも頑張っていきたいと思います。
(食肉センター 井上 高嘉)

【世羅協同農場から】雑草が教えてくれること
何とかなりました。大豆の収穫後に播いた大麦と小麦は順調に生育し、5月末には収穫を行います。以前広島では、すべて畑地で作物を栽培してきたため、今回が水田転作での麦の「初収穫」となります。
これからコンバインの整備、乾燥機の設置、大豆播種に備えて播種機の設定など、これから7月の半ばまで、休むことなく働き続けます。一年で最も忙しい期間で、同時に雨も多く、仕事は山ほどあるのに、なかなかやらせていただけない!というイライラする期間でもあります。
作業適期に仕事をすれば、一番良い結果が得られるのは当然なのですが、身体は一つしかなく、何を先に行い、どのような順番でやるのが最良なのか、と考えるのですが、これもまた、正直しんどくなる時期でもあります。
しんどい時は草刈りをします。一番仕事量が多いのが草刈りだからです。ただ草刈りを一度サボっても事業としてはたいしてダメージはうけませんが、丈のある雑草を刈るのは何倍も疲れます。畔の雑草を眺めながら「のびたな~」「隣の田のおっちゃん、怒ってるやろな~」と呟きながら順番を守り、作業をしています。「ただ、草は当然生えるもの」と皆さんは思われるかもしれませんが、例えば、山を平らに削り、そして開墾し、畑を新たに作ったとします。その畑で野菜を栽培しようと思っても、つくることはできません。野菜を作る前に土の中に微生物が生まれ繁殖するように、堆肥を入れ、耕して環境を作るところから始めます。何年か経ってようやく草が生え始めると、なんとか野菜をつくることができます。「雑草が茂ること」は、土に地力がある証拠です。雑草の種類で土の状態もある程度は想像もできます。放置すると雑草まみれになってしまい、仕事が大変になってしまうのですが、草が生える農地に感謝しています。ましてや水田は、水を張ることもできます。これは開墾以来長年、農地を管理されてきた方々の苦労と努力の結晶です。
農地は大切なもので、私や会社のものではありません。次に管理される方に引き継ぐまで守っていく、みんなの財産です。微力ながらも精一杯精進します!─と自分を元気づけながら、草刈りも頑張ります。
(世羅協同農場 近藤 亘)

世羅協同農場の麦畑
【能勢農場から】世代をつなぐ大切さを感じて
年明け1月に、瀬戸田農場から能勢農場に移籍してきました。「農場だより」に書くのは、7年程前、瀬戸田農場の新人だった頃以来だと思います。
移籍の話が出た時すごく悩みました。25年ぐらい前に関西から離れた広島の地に根付いた農場やよつ葉のことを、自分の地元・広島で盛り上げていきたかった。一緒にやってきた仲間に後を託して自分は移ってしまうこと、それにここ一年、山口県・上関原発反対運動のスラップ訴訟(※注)の闘いの輪に加わっていたので、思い半ばで離れるジレンマがありました。
でも決断できたのは、「場所は変わっても、やっていくべきことは変わらないでいられるだろうな」と感じられたからです。それにも増して、関西にはたくさんの人たちがいるので、これまで少人数でしか動けなかったことが、どんな形でやれるんかな、という期待が膨らみました。
さて、新生活が始まって5カ月経っております。予想以上に苦戦しております。兵庫県丹波市にある能勢農場の春日牧場で牛舎の増築が急ピッチで行われているところです。老朽化しているあちらこちらを直しながらの作業で、毎日いろんなことが起きます。牛がエサ箱を壊す、豪雨で牛の寝床が水浸しになる、牛が逃亡する、牛が水道パイプを折る、何度も何度も折られる。。。!
大げさだけど、「人間力が試されている」と言いますか、何せ今まで覚えた決して多くない技術・経験と、お金は無いですから限りある材料で、頭の中のぞうきん絞って対応しています。「ほんとこれまで頭使ってなかったなあ」と、痛感する毎日。一日終わると大して体を使ってないはずなのに、パッタリと寝てしまいます。
またここ春日でも悩みの種は、農場での共同生活です。今3人でやっています。もともと共同生活は苦手で、これまでも相当苦戦しながら何とか続けてきた感じです。寝ても覚めても一緒、特に少人数だと息苦しいというか、濃厚な人間関係から逃れられないというか。能勢のような大人数ならではの大変さも、もちろんあると思います。でも、ほんといつまでも慣れないですわ。。。
春日に来る前「春日も能勢農場なんだから、牛飼いの作業をしてるだけじゃなくて、農場憲章をどこか忘れずに生活したい」と思っていました。でも「こうしたい」と強く思うのが、かえって自分の首を絞めている感じです、今は。
これもまた7年ぶりに『流れに逆らって』を引っ張り出して読みました。あれは能勢農場が設立20年経った時に出版された本でしょうか。登場する一人一人が生き生きと映りました。7年前には読んでも分からなかったことです。読んだ後、能勢農場設立当時の人たちの思いは、少なからず私にも受け継がれていると感じました。登場する人たちとは誰とも一緒に生活し、働いたことはないのだけど、何代かまたがって受け取っているものはあるなあ、というのは発見でした。これからここで、自分は繋いでいける人間になるのかな。
また「こうしなくちゃ」と思う悪いクセが出そうなので、「何事もバランス、バランス」と言い聞かせながら、毎日を送っています。
(能勢農場 柳本 純枝)
※「山口県上関原発反対運動のスラップ訴訟」を紹介するパンフレットがあります。ご興味のある方は、下記までお問合せ下さい。お送りさせて頂きます。
【能勢農場から】2016年能勢農場・林間学校リーダー募集 今年のテーマは・・・「宝探しだ!能勢の山で見つけ出せ!」
能勢農場の林間学校が、今年も始まります! 暑い夏に、子どもたちがたくさん集まり、自然の中で、農場でしかできないことをやり、みんなで一緒に夏のいい思い出づくりをしましょう。今年のテーマは、「宝探しだ! 能勢の山で見つけ出せ!!」です。
スタッフと一緒に、子どもたちのお世話をしてくれるリーダーを募集します。やる気のある方、興味のある方、ぜひ参加してください!
●対 象:中学1年生以上 経験回数は問いません。
●期 間:7月25日(月)~8月26日(金)までの毎期、月曜日~金曜日の5日間。ただし、第2期・8月1日(月)~8月7日(日)は、東北の子どもたちとの林間学校になります。
●協力費:1期・10,000円を支給します。
●研 修:7月10日(日)にリーダーの研修を行います
※質問・疑問など、お問い合わせは直接能勢農場にご連絡下さい。(19:00~21:00の間にお願いします)
能勢農場TEL:072-734-1797
【北摂協同農場から】細菌、悩まされています
近頃、いろんな「菌」に悩まされています。
今年はとても大きく育ち、順調だと思っていた玉ねぎの葉が、2週間ほど前から黄色く枯れてきてしまっています。調べてみたところ、「白色疫病」という病気らしいです。疫病菌は世界中どこにでもいるそうです。今春は、高温で雨が多かったので、土壌に潜んで今か今かと増殖のチャンスを待ちわびていた疫病菌が、一気に暴走し始めたのでしょうか。
数日前、一年一作の「祭り晴れ」の稲の苗を育苗していた時のこと。育苗用のシートをはがすと青々した苗が揃ってあらわれるはずが、黄色くいじけてしまっている部分がありました。よく見ると、白色や青色のカビが生えてしまっていました。「苗立枯病」です。また菌の仕業。高温多湿気味に管理してしまったので、こちらも菌にとって都合のよい条件だったのでしょう。
何年か前に流行った「もやしもん」という漫画をご存知ですか? 主人公は菌が肉眼で見えるという特殊能力を持っています。もし私にもその能力があったら、絶対気が狂って農業できません。「ぎゃー! この畑には疫病菌が!」「ひえー!! あっちには青枯れ病菌が!」
ハウス栽培のトマトで、「青枯れ病」という厄介な病気が多発するので、農薬で病原菌を完全に退治しようと試みたことがあります。この場合、よい菌まで皆殺しになってしまいます。結局、病気はおさまりませんでした。少し生き残った病原菌が悪さをしたのかもしれません。
去年から、「悪い菌を退治するのではなく、良い菌を増やし、菌のバランスを改善しよう」ということで、稲わらと米ぬかとラクトバチルスという乳酸菌の仲間をハウス内に撒いています。この作戦が良かったのか、去年はほとんど病気が出ませんでした。
土壌には、植物にとっていいやつも悪いやつもどうでもいいやつもいて、そのバランスや環境条件で、植物が元気になったり病気になったりして、なんか腸内フローラみたいだな、と思います。
(北摂協同農場 山﨑 聡子)

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