File.13 遺伝子組み換え鮭がやってくる
2015年11月19日、米国食品医薬品局(FDA)は、遺伝子組み換え(GM)動物食品としては初めてとなる、成長スピードを早めたことで巨大化するGM鮭を承認しました。このGM鮭は、米国のベンチャー企業アクアバウンティ・テクノロジーズ社が開発したもので、200万に近い反対意見が寄せられていました。
この会社は、鮭の受精卵を養殖場に販売することにしています。もし環境中に逃げ出すと、鮭は肉食でありほかの魚を食べますが、この鮭はさらによく食べるため漁業資源が失われたり、稀少種が失われたりする危険性があります。野生のマスと交配すると、その子孫はGMサケよりもさらに成長速度が速く、自然界に生育する野生種に悪影響を及ぼす可能性があります。また成長が早いとそれだけ環境中の毒素の蓄積が多く、食の安全を脅かすことになります。また成長ホルモンの濃度も高く、それを摂取することによって、がん細胞を刺激するなどの影響も懸念されます。
現在、日本の食卓に出回る鮭の多くが、輸入ものになってしまいました。このところ国内生産量は減り続け、1996年の37万0385トンをピークに、2010年には19万7900トンにまで減少しました。代わりに増え続けたのが輸入で、2010年には24万8674トンにまで増え、国内生産量をかなり上回ってしまいました。輸入先も1990年代までは米国やカナダ産が多かったのですが、いまや半数超をチリ産が占めており、大半が養殖ものになってしまいました。その養殖場にこの受精卵が販売される可能性があります。
いま、漁業は養殖の時代になりました。その主役にこのGM 鮭を押し上げようと、同社は開発を進めてきたのです。米国でこの鮭が承認されたので、世界的に流通圧力が強まります。作物では種子を制するものが作物を支配してきましたが、魚では受精卵を制するものが魚の世界を制する時代がやってきています。
(天笠啓祐)
巨大化するGM 鮭(上)
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- 天笠啓祐さん:
- 環境・食品ジャーナリスト。市民バイオテクノロジー情報室代表。
「遺伝子組み換え食品いらない! キャンペーン」代表