2020年『Life』80号 後退するアニマルウェルフェアでの政府の姿勢

いま世界的に動物の福祉を重視するアニマルウェルフェアへの取り組みが進んでいます。健全な動物が健全な食べ物をもたらすことから、食の安全につながるテーマです。いま国際機関のOIE(国際獣疫事務局)が、その世界基準をまとめています。しかし、日本政府はその基準設定にあたり、中身の空洞化を狙った提案を行いました。このOIE の基準は、WTO(世界貿易機関)での貿易の基準になることから、経済を優先すると、なるべく緩やかにしようという力が働きます。
アニマルウェルフェアで、大きな争点になっているのが「採卵鶏生産システム」についてで、昨年末、それについて政府の対応が示されました。そこには、大きく2つの問題がありました。ひとつは基準案の原案にはなかった「採卵鶏の良好なウェルフェアの成果は、さまざまな鶏舎システムによって達成されうる」という文言を明記させた点です。これでは、例えば窓のないような、鶏の嫌がる問題のある鶏舎でもよくなってしまいます。もうひとつの問題は、採卵鶏の健全な育成にとって要となる「止まり木」についても、設置を前提とした原案を否定し、前提にしないように変更を求めたのです。
アニマルウェルフェアは、健全な飼育が食の安全をもたらすという観点から、大事なテーマです。いま日本政府は経済を優先する政策をとり続け、環境や食の安全問題で国際社会の足を引っ張っていますが、この分野でも足を引っ張っているといえます。

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- 天笠啓祐さん:
- 環境・食品ジャーナリスト。市民バイオテクノロジー情報室代表。
「遺伝子組み換え食品いらない! キャンペーン」代表