よつばつうしん
2016年8月号(No.065)


いま、なぜ「小農」か?

山下惣一(農業・作家)

■「小農」ってなに?
 「小農学会」なるものを九州で立ち上げました。そう「小農」です。
 「小農ってなんやねん?」と思われるでしょう。それでいいのです。これからその理由について述べます。
小農救国論
『小農救国論』
山下惣一【著】
創森社 単行本: 224ページ
1620円(本体1500円)
注文番号
59961
 広辞苑によると「小農」とは「所有する田畑が少なく自家労働力だけで経営を行い、その農業所得だけで一家の生活を支えている農業経営、またその農民」となっています。
 「少ない」「多い」は相対比較の問題であり、多いものと較べれば少ないが、少ないものと較べれば多いわけで、その定義は一定ではありませんよね。私は「規模の大小、投資額の多寡ではなく家族の労働を用いて暮らしを目的として営まれている農業・農家」を「小農」と定義しています。つまり利潤追求を目的としていないということです。これが「小農」で日本の農家の99%は「小農」です。
  なぜ、「小農」ばかりの国になったのかといえば「農地解放」のためで、それまでは地主と小作農民がいて「小作争議」の争いが絶えなかったのです。戦後、全国の農地約600万haの3分の1に近い192万haを政府が地主から買い上げて小作農民に分配したのです。
 これが世界の奇跡と呼ばれる無血革命の「農地解放」ですよ。敗戦のたまものですね。
 この国の農民は等しく小規模な自作農、つまり「小農」として、戦後日本の食料を供給してきたのです。これを「自作農主義」「耕作者主義」といいますが、法的に支えてきたのが「農地法」であり「漁業権」であります。


■強行される農業の構造改革
 ところが、いまやこれらの権利は経済成長の障害物としての「既得権益」とされ、自由化を迫られているのです。つまり、70年続いた戦後体制の終焉であり、次の時代はTPPに象徴される問答無用の弱肉強食の世界、社会になるのでしょう。
 現政府は強引に農業の構造改革をすすめています。「小農」を駆逐、淘汰して農業を再構築し、農業を成長産業に、儲かる農業に、輸出産業に転換していこうと農業への企業参入を強力に推進しています。中山間地帯のモデルは兵庫県の養父市。近いところですから視察に行ってみてください。
 いわゆる「耕作放棄地」、農家側からいえば「耕作断念地」が市内の全農地の22%にもなり、困り果てた市長さんが真っ先に「特区」の名乗りを上げたといわれています。オリックス、クボタ、ヤンマーなどの大企業や建設会社などが農業に参入しています。
 取材に行った記者によると、市の担当者が「あなたたちは企業参入に批判的だが、避難されるべきは耕作放棄した農家の方でしょう」と強い口調でいい、「荒地を企業が復活させようというのだから褒められるべきです」といったそうです。

■「小農」の駆逐は「地場」の消失
 農家が企業的経営を行うのは歓迎され、企業が参入するのはなぜ否定されなければならないのでしょうか。私の考えでは目的が違うからです。農家は企業的になったとしてもその土地から動くことはありません。土地を所有することはそこに縛りつけられることでもあるのです。一方、企業の目的は利潤です。利潤が出なければ撤退するでしょうし、株式会社なら合併、売却もあり得ます。そして利潤追求目的の農業は地元の消費者とは関係なく世界中の富裕層を顧客とするわけで、これが農産物の輸出戦略です。つまり、日本の農業が日本国民とは無関係になっていくということで、この道は消費者にとっても危機です。
 よく考えてみてください。農業だけがどこにも動かない究極の地場産業であり国内産業なのです。生産者・消費者が共に生きていく道は地産地消以外になく、その生産を支えるのが伝統的な日本の農家、すなわち「小農」の群像なのです。消費とは単なる消費ではなく、一面ではどういう社会にしていくかという社会運動でもあります。そのことをとりわけ育児中の若い世代に深く理解してほしいのです。「小農学会」は小農の側からの情報発信と、小農の生きる道の模索を目的としています。力になってください。
やました・そういち
 1936年、佐賀県唐津市生まれ。農作業のかたわら、暮らしに根ざした小説や農業問題をテーマにしたルポを数多く発表し、生産者の視点から鋭い提言を続ける。『海鳴り』『減反神社』『ひこばえの歌』『市民皆農』『農は輝ける』『日本人は「食なき国」を望むのか』 『小農救国論』など著書多数。「アジア農民交流センター」、「TPPに反対する人々の運動」共同代表。

『水俣病六十年』 −事件の遺言を人びとの手に−
水俣病六十年
 水俣病公式確認60年にあたり編集されたリーフレットです。水俣フォーラムのご厚意により、入手ご希望の方には冊子代・送料ともに無料で送っていただけます。
 2016年3月16日発行、A5判26ページ
 編集・発行/水俣フォーラム
 
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