よつばつうしん
2015年12月号(No.057)
視点論点

公表されたTPP条文テキスト
―私たちの暮らしへの影響

内田聖子(NPO法人アジア太平洋資料センター〈PARC〉事務局長・理事)


1.公開されたTPP協定文案

 2015年11月5日午後4時頃、ニュージーランド政府は12か国中で最初にTPP全文テキストを公開した(註1)。「テキスト全文」約1000ページと「付属文書」約5000ページという膨大な文書である。一方、内閣官房TPP政府対策本部のウェブサイトには「TPP協定の全章概要(日本政府作成)」や「付属書等」などが掲載された(註2)。
 日本政府の「TPP協定の全章概要」は96ページ。原文の10分の1に「要約」したということになる。英語圏の国民・国会議員はTPP協定のテキスト全文を見ることができるのに、日本の私たちは「協定文そのもの」を見ることができない。これでは共通の事実に基づき議論する以前の段階である。まず日本政府は、「概要」ではなく「テキスト全文」の日本語訳版を早急に公表すべきである。


2.英文協定文と日本政府の「概要」から読み取れる問題点
  「エンドレス・ゲーム」としてのTPP―今回だけに終わらない交渉

 個別分野の問題を指摘する以前に押さえておかなければならないことがある。TPPが仮に発効したとしても再交渉や追加交渉、協議などを経て、いくらでも内容が変わる危険性があるということだ。それを裏付けるのは条文テキストにある以下のような規定である。
・TPP委員会を設置。発効から3年以内に協定の改正や修正を検討する。
・相手国から要請があった場合、撤廃時期の繰り上げについて協議する。
・政府調達章では、適用範囲拡大のため発効後3年以内に再交渉を規定。
・国有企業章では、発効後5年以内に追加的な交渉を行うと規定。
・日本は米、カナダ、豪州、ニュージーランド、チリの5カ国と、発効7年後に農産物関税や関税割当、緊急輸入制限(セーフガード)の再協議を規定。
 TPP交渉は米国が参加した2010年以降、すでに5年を交渉に費やしてきた。急ごしらえで出した「大筋合意」とその後のテキストは、確かに米国などからすれば「不十分」な中身もあるだろう。だからとりあえずは現段階で発効させ、3年以内にまたじっくり中身を変えていけばいいと考えても不思議はない。
 日本政府は農産物の関税が7年後に再協議されるという事実が発覚したことを受けて「安易な妥協はしない」と述べているが、もともとは「TPP反対」を掲げ誕生し、「聖域を守る」といいながら譲歩をした嘘つき政権が7年後に約束を守る保障は一切ない。


3.日米並行協議
 日本はすでに農産物の関税撤廃・削減で驚くべき譲歩を米国などに行っている。「聖域」5品目のほとんどが守れていない(=国会決議違反)をはじめ、「聖域」以外の約400品目が関税撤廃・削減になった。これは日本の農業、食料自給率、食料安全保障にとって大打撃。しかも先述のとおり米国など5カ国と、発効7年後に関税やセーフガードの再協議を規定。これらの国々からさらなる関税撤廃・削減・輸入枠拡大などを求められる危険がある。
 TPP全体交渉の結果以外にも、TPPと並行して行われている「日米並行協議」の中身が部分的にだが明らかになっている。日本はもともと米国からTPPと日米並行協議という「二重の罠」を仕掛けられてきたが、TPPよりもあからさまに米国の言いなりになっているのがこの並行協議である。
 まず自動車の日米並行協議では、米国やカナダが日本から輸入する自動車の関税撤廃後、輸入急増時に関税を復活するセーフガードを発動できるなど、米国にとって有利な条件が決められていたことがわかった。保険分野でも、日本郵政について外資も郵便局網を日本企業と同じ条件で利用できること、かんぽ生命を外資系保険会社よりも優遇する措置を導入しないなど、米国のもともとの意図を十分に反映した中身がわかった。
 そして私たちの多くが懸念する「食の安全・安心」に関わる日米協議では驚くべき事実がわかった。
@収穫前及び収穫後に使用される防かび剤について、「農薬及び食品添加物の承認の
  ための統一された要請・審議の過程を活用し、合理化された承認過程を実施する」
  (日米並行交渉に係る書簡)。

 収穫後に農産物の保存のために使う防かび剤について、日本は添加物と農薬の両面から影響を評価し、基準を設定。米国は農薬としてだけ評価しており、日本の方法を“二度手間”と批判し、添加物としての評価を省くことを求めてきた。そうなれば日本の制度の見直しにつながり、添加物としての食品への表示義務がなくなる。
A日本で未指定の国際汎用添加物を認める決定(2012年閣議決定)の実施
 従来から米国は、国際的に安全性が確認され広く使われているとして、日本で使用を認める添加物に45品目を指定するよう要求。日本では4品目が未指定のため今回の日米並行協議で実施すると規定。
B牛の皮と骨が原料のゼラチン及びコラーゲンの輸入規制緩和
 米国での牛海綿状脳症(BSE)発生を受け、日本は輸入禁止を続けているが、その規制を緩和する内容。
 日本政府は「TPPで食の安心・安全は守られます」と繰り返しいうが、しかし日米並行協議については言及しない。私たちはまず、TPPや日米並行協議など全体として日本を取り巻く「仕掛け」を理解した上で、個別分野の問題点や懸念を丹念に分析し、多くの人に伝える必要がある。署名から批准への手続きは、来年の国会から始まるだろう。これまでの反対運動の蓄積をもって運動を深化させ、そしてさらに大きく広げていきたい。

写真はいずれも10月のアトランタでの反対デモの様子

 

【註】
1▼http://www.mfat.govt.nz/Treaties-and-International-Law/01-Treaties-for-which-NZ-is-Depositary/0-Trans-Pacific-Partnership.php
2▼http://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo.html#201511kyoutei_zanteiban


 うちだ・しょうこ 1970年生まれ。出版社勤務などを経て2001年よりPARC事務局、2006年より現職。経済のグローバリゼーションが世界にもたらした貧困、格差、環境破壊について、多国籍企業研究、政策提言・キャンペーン活動を担う。現在はTPPをはじめとする自由貿易の推進への批判・提言活動を中心に行なう。
★情報はSNSで発信★twitter: @uchidashoko

ページトップへ