よつ葉つうしん

2015年8月号(No.053)


能勢農場

 
  放牧・繁殖の事業化へ向けて
 協同の力で持続可能な畜産へ
  能勢農場 寺本陽一郎

能勢農場では、今年から放牧・繁殖事業をスタートさせています。3月には、母牛になる予定の「土佐あかうし」2頭が高知県からやって来ました。そして、先月号でお知らせしたように、5月からは農場に隣接する森林伐採跡地でシバ定植が始まっています。関西で放牧野づくりに取り組むこと。それは厳しい状況にある日本の畜産にとって、ささやかな試みであるかもしれません。しかし、この取り組みは、大規模化・工業化を迫られる畜産の流れの中にあって、地域の農業・林業と一体化した畜産をめざそうとする私たちの畜産ビジョンを、目に見える放牧景観として示そうとしています。ご支援・ご協力お願いします。   

(編集部)


 大規模化による関係分断

放牧されている土佐あかうしの
「みはる」と「さつき」

昨年から和牛や交雑種などの仔牛1頭当たりの市場価格が高騰し続けています。原因は2001年のBSEの発生以降、宮崎県での口蹄疫、安愚楽牧場の倒産、そして今なお続く東日本大震災とこれに伴う原発事故などの影響が畜産・酪農からの離農・廃業という形で急激に進んだ結果、市場での需要と供給のバランスが崩れてしまったことなどにあるとされています。
 加えて今、政府が推し進めている「聖域なきTPPへの参加」が、これからの畜産・酪農の展望をますます困難なものにしています。
 こうした情勢の変化に対応して一部の畜産・酪農家が生き残りをかけて規模拡大に動き始めているのですが、規模を拡大するということは、それまで営まれてきた地域固有の生産のあり方や農業や酪農・畜産それぞれの連携や循環といった仕組みが、そのいずれかが大規模化することで絶たれてしまうことを意味するわけで、いくら規模を拡大して生き残ったとしても、これまで地域の中で営まれ、作られてきた関係はますます分断され廃業を招く結果にしかならないと感じています。

 
放牧 かつては全国で

能勢農場は今年から放牧・繁殖の事業化に取り組んでいます。でも観光牧場を作ろうというわけではありません。
 放牧というと西洋の技術というイメージがあり、日本では北海道や東北といった広大な平野に牛が放されている風景を思い浮かべる人も多いと思います。しかし、その歴史は古く、今のように施設(牛舎・畜舎)がなかった時代から全国で放牧による牛の飼育・管理が行われており、広大な平野から山の険しい地域まで各地方の地形や環境に合った放牧技術が多様に存在していました。
 また現在では「牛=食す」いわゆる肉専用というイメージがすっかり定着していますが、一昔前までは牛が本来持っている採食(草を食む)や蹄耕起などの能力を活かして田畑や山林の管理・運搬など重労働となる部分で人の代わりを務め、人々の生活に寄り添いながら貴重な役割を担い「役牛(えきぎゅう)」と呼ばれていました。
 しかし、戦後から高度成長期にかけて全国に存在したおびただしい数の牧野には、国の林業政策によって拡大造林の波が押し寄せ、牧野は姿を消し牛は施設で飼われ、食用として特化していきました。

 
 林業・農業との連携を展望

今、全国で牛のそうした能力が見直され、休耕田や耕作放棄地、山林の維持、管理に活かそうという取り組みが徐々にではありますが拡がりつつあります。林業の衰退は昨今特に著しく、山林の荒廃が全国でも進んでおり、近年起こっている水害や土砂災害の原因と言われています。
 今回能勢農場が放牧地としてお借りした山林も伐採後4〜5年が経過している荒廃地です。この伐採跡地に高知県畜産試験場が推奨しているシバ型草地造成法を導入し、草地への転換を進め、将来はこの地を拠点に林間放牧や育林放牧など林業との連携を展望していきたいと考えています。
 今、第一次産業である林業・農業・酪農・畜産は国策の中で大きな転換が求められている時代に入っています。でも一個人・一農家・一企業だけが強く大規模化するのではなく、等身大のもの同士が地域の中で互いに協力し合い、これからの時代に合った新たな連携や循環といった仕組みを具体的に構築していくことが、持続可能な生産への第一歩になると思います。
 そして、こうした事業を通して流通や消費といった立場の人たちにも、第一次産業の現状や課題を身近に感じてもらい、共有や共存といった課題を一緒に考えていける取り組みにしていきたいと思います。

シバ草地放牧に技術協力

シバの定植作業
 この度、能勢農場の寺本さんから、高知県が開発・体系化したシバ草地放牧技術を取り入れたいとの要請を受け、技術協力をさせていただくことになりました。シバは日本全国に分布し、田んぼの畦や河原で普通に見られる野草で、@茎がじゅうたん状に広がり地面を覆うため土壌保全効果が高い、A成長点が根元の茎にあるため、葉が食べられても再生する、などの特性があり、急傾斜地で牛を放牧するのに適した草種です。今年初めから、高知県特産の和牛「土佐あかうし」2頭が、能勢の地で放牧野づくりに参加しています。褐色の牛が緑のシバ草地でゆったりと草を食む姿は、近隣の方々だけでなく、関西の方々が注目される放牧景観になることでしょう。

(高知県畜産試験場 場長 吉田 均)

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