よつばつうしん
2011年7月号(NO.004)

藤村靖之さんインタビュー―「非電化工房」を訪ねて
少ないエネルギーで愉しく暮らす

 『今週のお知らせ』250号で「非電化工房」(栃木県那須塩原市)を訪ねてきたことをお知らせしました。ここでは、そのときに同工房代表で発明家の藤村靖之さんに伺ったお話を少し詳しく紹介します。
 先月号で紹介した今中哲二さん(京都大学原子炉実験所)は講演の中で、貧しくても充実していたご自身の少年時代を振り返りながら、消費するエネルギーの量と人が幸せであるかどうかは関係がないと強調しておられました。そのとおりだと思います。そこで編集部では少ないエネルギーで愉しく暮らすことを提案し実践している藤村さんを訪ねることにしました。藤村さんは原発事故の後、那須地域での放射能問題対策住民活動に取り組んでおられ、マスコミの取材も殺到しているなか、貴重な時間を割いてくださいました。

お金を使わない豊かさ

 ここ「非電化工房」は、私がテーマにしている「エネルギーとお金を使わないで得られる豊かさ」をかたちにしたテーマパークです。今の日本人はお金やエネルギーを使う=幸せ、と思い込んでいます。しかし、お金さえあれば幸せなのでしょうか? エネルギーの奪い合いから戦争が起きているのではないのでしょうか? たかがお金がないだけで不幸せというのではいまの若い人たちがかわいそうです。しかし、それを口で言っているだけでは説得力がない。そこで、お金やエネルギーに頼らなくても豊かで幸せな暮らし方があることを実感してもらえるテーマパークを作ろうと思ったわけです。
 原発事故が起きて、今の豊かさがどれほど危いシステムに依存して成り立っているのか、誰の目にも明らかになりました。私は以前から同じことを言い続けているわけですが、それを聞く人の感性が大きく変わり、話を受け入れてくれるようになってきたと感じます。ただ、今の世間の反応は「だから節電しよう」「ガマンしよう」ということになっています。しかし、それではダイエットの後のリバウンドと同じことが起こってしまいます。愉しくなければ長続きしません。

非電化工房では、セミナーやワークショップ・見学会などが開かれ、参加者は全国から訪れるそうだ。敷地中央の池の周りには、絵本から抜け出してきたような色とりどりの小屋が点在。そのそれぞれも藤村さんが工夫を凝らした発明品だ。関西からは少し遠いけれど、大手資本のテーマパークで散財するよりはるかに有意義なこと請け合い。
〒329-3222 栃木県那須郡那須町寺子丙2783-22
FAX.0287-77-3198・info@hidenka.net・http://www.hidenka.net

工房入口にある「土の日時計」。
2010年アースデイ参加者によって作られた。

非電化冷蔵庫/「放射冷却」を利用して
冷やした水が保冷剤。モンゴルで実用化された。

「正しさ」から「愉しさ」へ

 「快適・便利・スピードUP」だけが幸せなのか? ひたすらそれを追い求めていては「ストレス・不安・あせり」から逃れられないのではないのか? そう問い直すことは正しい。しかし、その「正しさ」を実現するためには、辛いのをガマンするだけではなくて、いろんなやり方があることを知ってほしいのです。「幸せ度」を倍にして電力消費量を半分にすることはできます。私はそのために多くの非電化製品を発明してきました(発明品の主なものは著書『愉しい非電化』で紹介しています)。
 電化製品を否定しようというわけではありません。電気に頼らない愉しい選択肢を加えたいと思っています。ちなみに「楽」ではなく「愉」という字を使うのは、心の豊かさや、語源である自然との調和という意味も込めたいからです。
 「節電したいけど都会のマンション暮らしで」という方には、これからの季節「緑のカーテン」をおすすめします。南側のベランダに植物を植えるのです。つる科がいいですね。植物が育ってくれるから愛しいし、水をあげるから気化熱による断熱効果がある。電気を使わず「幸せ度」UPでしょ。ちょっと面倒だけど、「プロセスを愉しむ」ことが大切。ガラス戸にはポリエチレン製の断熱シートもあるといいですね。ダンボールでも断熱効果はありますが、それではダメ。「節電ダンボール」じゃみじめになります。見た目が美しくなきゃ愉しくないですからね。

マインドセットを破る


もみすり器/もみのままの
お米が手動で玄米に。

 アインシュタインはこう言ったそうです。「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセット(心の枠組み)のままで、その問題を解決することはできない」。ところが原発事故を起こしてしまった今でも、私たちはこれまでと同じマインドセットのままエネルギー問題を解決できると思い込んでいるのではないでしょうか。今までと同じ量のエネルギーを消費することを前提としたまま原子力から自然エネルギーへという議論は危いと思います。まずは無駄をなくそうという議論を先行させるべきでしょう。
 マインドセットを破らなくてはなりません。アズビー・ブラウンという人が先日遊びに来たのですが、彼の『江戸に学ぶエコ生活術』という本が参考になります。これを読むと(ご本人が描いた精密なイラストも見ごたえがあります)江戸時代が一番幸せだったのではないかと思えてきます。もちろん悪代官に苦しめられた人もいたでしょうけどね。平均労働時間は今よりはるかに短かったようです。生産性が当時の400倍にもなった今も、身も心もすり減らして働いているのはなぜでしょう。不必要な支出を増やしているからです。そして「幸せ度」は少しも上がっていません。
 文明っていつもこんなふうにちぐはぐなんです。GDPが大きくなれば幸せになれるという幻想はもう捨てるべきです。本当の幸せや豊かさをもう一度考え直し、新しいビジョン、ライフスタイルを描き直さなければなりません。そのための努力・工夫をできるところからやっていきましょう。愉しみながら。(まとめ/編集部・下村)


ふじむら やすゆき
1944年生まれ。発明家。日本大学教授。潟Rマツ熱工学研究室長、潟Jンキョー代表取締役などを経て、現在、非電化工房、発明工房、発明起業塾などを主宰。著書に『さあ、発明家の出番です』(風媒社)、『愉しい非電化』(洋泉社)、『テクテクノロジー革命』(大月書店/読書クラブ会員のコーナーに書評)ほか。

藤村さんの後ろは「ムーミンハウス」。
自分でつくるログハウスキットとして販売もされている。