関西の水を知る 水に学ぶ

讃岐田訓(神戸大学)

■第4回 トリハロメタンの発がんリスク

 1970年代、80年代の水道行政の対応はひどいものでした。住民には知らしむべからずということで、都合の悪い情報は一切出さない。発ガン性物質のトリハロメタンについても、浄水場での塩素消毒で出来てしまうことがわかっているのに、測定値は頑として教えてくれません。
やむなく行なわれた市民の調査団(当時、京大農学部の助手で、この3月末に定年退官された石田紀郎教授が中心となった)による測定では、淀川の下流になるほど、水道水中のトリハロメタンの濃度は高く出ました。つまり、水道原水の汚れの度合いがもろに影響していました。また、とくに夏場に非常に高くなっていました。たとえば、枚方市の夏場の水道水では、70〜80ppb(10億分の1の単位。たとえば、これを%の単位に換算すると、0.000007〜8%となる)に達していました。
では、この超微量濃度と思われる水道水は、人間の発がんにとって、危険なのか、取るに足らないものなのか。

総トリハロメタンの発がんリスク(発がん確率)を見てみましょう。いまの水道水質基準では、100ppb以下が許容基準とされており、この濃度の水道水の発がんリスクは、生涯にわたって飲みつづけたとき、10万人に4人が発がんする確率になります。
とすると、枚方市の夏場の場合、許容基準濃度の4分の3ぐらいなので、10万人に3人が発がんする確率になります。したがって、人口が40万の枚方市では、水道水を飲むだけで、12人の市民が発がんしてしまうことになるのです。

大阪府下や阪神間が高度処理に切り替わったのが1998年から2001年。いまは10ppb前後にまで低減されました。浄水場での塩素消毒は敗戦後、米軍が占領軍として進駐してきた1945年からはじまったので、じつに半世紀を越えて、発がんの危険性にさらされてきました。そして、わが国のほとんどの人びとが、いまもさらされつづけています。
図1は戦後、がん死者数がどのように推移してきたかを示したものです。年間の総がん死者数を折れ線グラフでみると、この半世紀で6万4千人から29万5千人に増加しました。もちろん、21世紀に入って、30万人を突破しました。ただ、総数でみたときは、人口の増加が効いている可能性があります。そこで、それぞれの時代で、10万人の人びとの内、何人ががんで死んだかをみたのが棒グラフです。この場合も、77人に過ぎなかったものが、233人もがんで死ぬようになっています。
発がんの要因は、もちろん水道水だけではありません。いろんな要因があります。しかし、最近のがん治療技術はめざましく進歩し、早期発見の技術もはるかによくなりました。なのに、なぜ、がん死が加速度的に増えつづけるのでしょうか。


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