関西の水を知る 水に学ぶ

讃岐田訓(神戸大学)

■第3回 自分たちの力で測定を開始

 みなさん、こんにちは。前回は「トリハロメタン」というものが、水道水中の発ガン性物質として、ふいに登場しまして失礼しました。そこで、この舌を噛みそうな名前の物質はそもそも何者なのか、今回はひとつ、そこのところをお話したいと思います。


 この発ガン性物質は、長年、水商売を営んできたわれわれの業界では、最も要注意の危険物質なのであります。
 時は1974年、アメリカのニューオルリンズ市での出来事です。この都市では、ミシシッピー川の水で水道水をつくり、市民に給水していたのですが、井戸水を利用している人も少なくありませんでした。そこで、反公害市民団体である米国環境防衛基金の水質部長、ロバート・ハリス博士が、市内でのガン死者について、水道水を飲んでいた人と、井戸水を飲んでいた人とに仕分けしたところ、水道水を飲んでいた人の方が、ガン死者数が多いこと、それも泌尿器系と消化器系のガンに多いことを突き止めました。この手法を疫学調査というのですが、ハリスのこの発表(これは後に、ハリスリポートと称され、全世界に発信された)に米環境保護庁(EPA)はつよい衝撃を受け、ただちに市の浄水場で原因究明に入りました。ここがわが国の厚生労働省や環境省と違うところで、原因はまもなく解明されました。浄水場では、取水した水を最初に塩素で消毒します。このときに生成していたもので、ことに濃度が高かったのがトリハロメタンと総称される有機塩素化合物で、4種類が検出され、そのうち群を抜いて高濃度であったものがクロロホルムでした(図1)。

市民には教えられない、と水道当局

 クロロホルムのこと、これまでに聞いたことありませんか。そう、麻酔剤として全世界で使われていました。ところが、発ガン性が非常に強いことがわかり、当時もいまも、麻酔には一切使われておりません。その毒物が浄水過程で生成し、水道水に混入していたのです。
 この恐ろしい事実が判明したことで、アメリカでは飲み水の安全性論争が繰り広げられ、1979年、0.1ppm以下とする許容基準が暫定的に定められました。
 この一連の推移をわれわれ市民が知ったのは、1980年、当時、阪大工学部助手であった山田国廣氏(現、京都精華大教授)が京都新聞に発表したときでした。すごい驚きでした。ところが、さらに驚いたことに、厚生省(旧)や水道関係者はこの情報を当初から知っており、1974年からすでに調査をはじめていたのです。
 これらのことを隠していた行政側の言い分は、「そんなこと市民に教えるとパニックが起きる」というものでした。また、各地の市民は近畿周辺各市の水道当局者に対して、トリハロメタンの測定値を教えてくれるよう要求しました。しかし、「法律で検査項目になっていないので、仮に測定していたとしても、市民には教えられない」というのです。やむなく、われわれ市民は、自分たちの力で測定を開始することにしました。

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