ひこばえ通信
2011年3月号(第296号)


第21回:寒い国の栄養学

 近代の農学や栄養学はドイツで生まれて発達しました。イギリスやフランスに先を越されたドイツは上からの近代化をすすめます。国土が狭く(日本と同じくらい)、資源が少ないため、科学技術を向上させて富国強兵に励みます。農学は食糧増産のため、栄養学は強い兵士を作るためのものでした。
 ドイツは寒い国です。だから、ここで生まれたのは「寒い国の栄養学」であり「寒い国の農学」でした。温暖な日本にそのまま適用するにはいろいろと問題があるのですが、明治政府にそんな余裕はありません。とにかく脱亜入欧、和魂洋才で無批判に取り入れていきます。第2次大戦後もそうでした。鬼畜米英から一転してアメリカ礼賛へとなだれを打ってきました。
 栄養学では三大栄養素としてたんぱく質・炭水化物(でんぷん、糖類)・脂肪をあげます。たんぱく質は体を作るため、炭水化物はエネルギー源として絶対必要ですが、脂肪はわざわざ食べる必要はありません。人間もブタや牛と同じ動物ですから、自分で脂肪を作ることができます。
 炭水化物は消化されてブドウ糖となり血液の中に入り全身の細胞へと届けられ、細胞が活動するためのエネルギーとなります。血液中のブドウ糖、つまり血糖に余裕がある時、皮下脂肪となってたくわえられます。皮下脂肪はいわば血糖の貯蔵庫で、炭水化物を思うように食べられない時には、これをとりくずして血糖にします。脂肪を三大栄養素のひとつにしたのは、寒い国で国土も狭く、不足しがちな炭水化物を補うためのものです。
 ただし植物油は細胞を作るために必要ですし、人間には作れないものですから、食べものとして摂りいれなければなりません。が、植物の種には必ず含まれていますし、大量に摂取する必要もありません。米にもゴマにも大豆にもピーナツにも植物油は含まれています。日本のように野菜や果物、穀物の豊かなところでは、いろんな物を食べさえすれば、自然と体に入ってきます。
 血糖は人間が生きていく上で絶対必要な物なのに、多すぎると怖いものになります。全身の細胞でエネルギー源として使われたり、余った分が皮下脂肪として貯えられたりすれば問題はないのですが。余分な血糖は血管壁を攻撃し、血管がいたみ、ボロボロになっていきます。これが糖尿病です。砂糖と油の摂り過ぎで、わが国の患者は2000万人に達するとまで言われています。
 病名を変えるべきだと思います。尿の中の糖が増えたところで、それは結果であって、別に体に悪いわけではありません。そもそも尿は、一旦、体に取りこまれながら、要らなくなった物を体外に出すものですから。問題は尿ではなくて、血管がボロボロになることなのですから、せめて血糖病と言った方が、わかりやすいでしょう。
 人間の体の中で、血管がたくさん集っている臓器を思い浮かべてください。上から、脳・眼の網膜・心臓・腎臓です。これらの臓器の血管がボロボロになれば、脳梗塞や脳出血・失明・心筋梗塞・腎臓病が出てきます。臓器ではないですが、足の血管がやられて酸素と栄養がいかなくなれば、足を切断しなければなりません。
 ヨーロッパの人たちは、余った血糖を皮下脂肪にしてたくわえる力が強いようです。これに対して、日本人をはじめアジアの人々は、お米という非常にすぐれた栄養源を持ったために、その能力が低いそうです。安定して食べものが得られるので、もしものために貯蔵する必要がありません。そのかわり、やせているのに糖尿病にかかる人が増えています。
 いつのまにか糖尿病の話になってしまい、予定の紙数がつきました。「寒い国の農学」を無批判に取り入れたために、日本の農業がダメになったことも書きたかったのですが、ここまでです。しかも、次回はありません。長い間、ご愛読ありがとうございました。