ひこばえ通信
2011年1月号(第294号)


佐久間智子(特活NPO法人アジア太平洋資料センター理事、
女子栄養大学非常勤講師)

第4回 農のかたち

 近所の畑で玉ねぎの定植をした。我が家の食卓に上る野菜の大半は、30代の有機農家、渡邊さんがこの畑でつくったものだ。
 野菜を買う会員たちも畑仕事を手伝うことになっている。私は玉ねぎ部長とおだてられているが、陰の部長は小学3年の我が息子。驚くべき速さで玉ねぎを定植していく彼を見ると、こういう才能が生かせる世の中になって欲しいと思ってしまうのが親心だ。
 しかし今や、農家には耕作技術や忍耐、勤勉さに加えて、アイデア、工夫、宣伝力が求められる時代になった。他のどの職業よりも高い能力が要求されているのかもしれない。
 ところで今年、米1俵(60s)の価格は9000円まで下がった。15年前の3分の1のだ。赤字となれば、政府の言う通り大規模化した専業農家ほど大きな痛手を被る。関税率778%が維持されていてこうなのだから、関税が引き下げられればコメ農家はひとたまりもない。
 ところが、今話題のTPP(環太平洋パートナーシップ)に参加すれば、関税は引き下げではなく撤廃になる。高齢化が進む農山村は、数年間は補助金を出すから自然消滅してくれということなのか。
 他方で、私たちの玉ねぎ部には、(バブル時代にOLだった私もたまに通った)都内のイタリアン・レストランのシェフも来ている。渡邊さんの野菜は、彼の店の「売り」の一つらしい。また、お肉をほとんど食べないという、分かっちゃいても止められない私が恥ずかしくなるような自然派の家族も玉ねぎ部員だ。
 都市や近郊には、「農」あるいは「より自給的、循環的」、「より自然」なものへの回帰の動きが確実に存在する。だとすれば、危機に陥る農山村と、農に回帰する都市の人々が、物理的な距離の遠さによって交流を妨げられていることが問題の一つだろう。
 これからの生き方として半農半X(半分は農業、半分は他の仕事をするの意)が提唱されたとき、正直私はこれはフリーランスの人だけの特権じゃないかと思っていた。
 だが、工作機械メーカーのコマツが、東京より石川県の方が豊かな暮らしと多くの子どもに恵まれている現実を前に、本社機能のほとんどを石川県に移したニュースに接し、これだ!と思った。企業が移動すれば、地方都市の再生と農への市民参加は可能なのだ。実際、たいていの企業では、すべての部署をコストの高い大都市に置く必要はないはず。IT技術も、ライフ・ワーク・バランス論も、本社機能の地方分散を後押ししている。
 ところで私たちの玉ねぎは一回目の定植分が種バエのウジに大々的にやられてしまい、やり直し。農業には温暖化への対応という高度技術も求められる時代なのです(泣)。