ひこばえ通信
2010年12月号(第293号)

福祉だより 医療福祉の現場から(7)
「施設病」というべき症状について
横江邦彦(光愛病院)

 私は精神科病院に勤務していますが、精神科医療の一つの役割に、「社会復帰」があります。内科や外科の治療において、インフルエンザや悪性腫瘍、骨折などの治療過程には、社会復帰というのはありません。
 最近の精神科医療において、精神病が「脳の病気である」と器質的な変化をとらえていくことが流行っています。しかし、社会復帰という言葉が精神科医療で使われること自体、精神疾患が社会的な病であることの証左です。
 精神科病院に超長期間入院されておられる方々には、「施設病(私が勝手につけた名前なので、医学的にそんな病気はありません)」というべき症状が発生することがあります。そして、この病気を作っているのは、精神科病院であり、その職員です。
 病院に入院すると、病院内のルールに従わなければなりません。食事時間も消灯時間も決まっています。食事のメニューも自分で決めるのではなく、栄養士が必要カロリーを計算して決めてくれます。薬の飲み忘れもありません。
 そんな生活が長く続きすぎると、その生活が体に染み付いてしまいます。つまり、退院した際に自分の食事について、いつ、何を食べるか自己決定する能力を奪ってしまうのです。
 私は15年ほど前、光愛病院に調理課のパートとして就職し、その後、清掃パートをしていましたが、その時に感じたことは、率直に「病院が汚い」ということでした。患者さんは、自分の病室や病棟内のそこら中で煙草を吸っておられ、吸い殻を病棟の廊下にポイ捨てしていました。職員はそれが当たり前のように、平然としていました。
 つまり、光愛病院の職員が「施設病」にかかっていて、医療従事者が患者さんに、病院病を感染させているのです。「施設病」は環境的な要因が大きいので、病院の新築・改築に伴い、煙草のポイ捨てはほとんどなくなりました。
 私自身も、おそらく「施設病」を罹患しています。この病気が怖いのは、精神科病院に勤務していたり、医療や福祉に携わる人で特に入所施設で働く人なら、だれでも罹る病気で、自覚症状を持たないという、とても怖い病気なのです。