ひこばえ通信
2010年8月号(第289号)


第14回:カーター大統領とスシブーム

 読売新聞の「食ショック」の新シリーズ「身体の警告」は第1回(6月29日朝刊)で現代の肥満の問題を取りあげました。日本でも確実に肥満が増え続けていて、90年代に25%前後だったのが、00年代には30%前後になっています。しかも男性の場合、年収の低い人ほど肥満者が多いという調査結果も紹介しています。「ファストフードなど安価で手軽な外食は、カロリーや脂質が高く、太りやすい」ことを原因としてあげています。
 ぼくの手元に1979年出版の『栄養講話』というちょっと古い本があります。40余りの話題が並んでいる中に「太りすぎと痩せすぎ」というのがあって肥満の問題に触れています。高度成長を達成して、食糧が豊富に出まわってきて、太り過ぎに注意しようなどと広く宣伝されるようになったが、本当にそうだろうか。「太り過ぎて困っている人の多くは、収入も多く、生活も安定している人たちであることが多い。男子では少なくとも課長級にならないと太り過ぎはほとんど見られず、女子の場合も、その男子に相当する年配に多く見られはじめる」。
 黒澤明監督の映画『赤ひげ』にも面白いシーンがありました。三船敏郎演じる医師の赤ひげが大名屋敷に回診に行きます。太り過ぎて肩で息をしている大名(千葉信男さん)と家老(誰だったか忘れました)に対し、食事指導をします。おそらく糖尿病なのでしょう。赤ひげが筆でこれはダメ、次もダメとごちそうを削っていくたびに大名が実に悲しそうな顔をします。この時代の肥満は非常に珍しい存在だったと思います。江戸時代の料理の本では調味料として砂糖は使われていません。ダシとしょう油や味噌、そして野菜の甘味を味わっていました。砂糖はとびっきりのぜいたく品でした。
 70年代のアメリカにカーターという民主党の大統領がいました。イランのイスラム革命に手を焼くなど、在任中はあまり実績を残しませんでしたが、退任後に中東和平などで活躍しています。日本ではあまり知られていませんが、この大統領は国内の肥満問題に取り組みました。すでにアメリカはこの頃には安価で手軽で、カロリーも脂質も高いファストフードがあふれ、貧困と肥満もあふれていました。「低カロリーで、栄養バランスのいい日本食(ごはんと野菜と魚)」に注目し推奨しました。これがその後の世界的なスシブームや日本食ブームのきっかけとなりました。ただし、スシや日本食は金持ちしか食べられず、貧困と肥満の問題は解決されていません。
 たとえばクリントン大統領(この人も民主党)も公立学校での自販機の撤去に取り組みました。肉食の人たちにとって牛乳は欠かせないものなのに、これがコカコーラなどの飲料水にとってかわられたことも肥満の大きな原因になっているからです。これらの飲料水の消費を抑えるために税金をとっている州もあります。
また、冒頭であげた読売の記事では、オバマ大統領のヨメさんが(この人も民主党)、やはり貧困と肥満の問題に取り組んでいることを紹介しています。ファストフード店しかないような「フード・デザート(食の砂漠)」地区の児童に肥満が多いため、安価で良質な食料品を買える店を誘致し、こうした地区を撲滅するキャンペーンを展開しているそうです。
 ルーズベルト大統領以降、民主党は労働者や黒人を支持層に取り込んできました。貧困と肥満の問題に取り組むのは民主党の伝統とも言えます。「オレたちが何を食べようと、太ろうとほっといてくれ」というのが共和党の支持者です。