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2009年7月号(第276号)

農地は社会の共同財産
改正農地法に思う
クローン家畜食品はいらない!
暮らしからの政治(59)
野良仕事のひとりごと
「もったいない精神」をモットーに米ぬかを有効活用!
会員レポート/お店巡り   神戸シフォン
会員のひとりごと/旬の食材 食べ方と保存方法
おたより掲示板
中井製茶場 お茶摘み体験ツアー
うまい話まずい話
共済だより よつ葉共済会日暦(4)
わが家の朝ごはん
めざせ! 半歩先〜命つむぐために〜
ちゃぶ台ラプソディー、編集後記



農地は社会の共同財産
改正農地法に思う
本野一郎(全国有機農業推進協議会副理事長)

 改「正」農地法が、6月17日の参院本会議で可決されました。法の目的を「所有者保護」から「農地の有効利用」に転換し、農地を借りる規制を大幅に緩和して企業の参入を促すなど、農地制度を根本的に変えるものです。 政府は耕作放棄地の増大に歯止めをかけ、農業を活性化するとしていますが、利潤第一の企業にそれを期待できるとは思えません。地域に根差した直売所のように、農地から生まれた自給経済の延長線上に地域の自給・交換経済の形成を構想する立場から、この転換は地域を支えてきた農地を地域から切り離すもの、と批判されている本野一郎さんに、改正農地法について思うところを語っていただきました。(編集部・下村)


戦後農政の根幹 自作農主義

 第二次世界大戦以前、日本では地主による農地支配が行われていた。破産する農家の農地を集め、小作に出して法外な小作料をとり、地主本人は都市に住み、あるいは一切農業に携わらず、という仕組みができてしまった。こうした不公正な地主制度によって食い詰めた小作農家が多数生まれ、その不満が戦争勢力の支持基盤となり、満洲への開拓団が組織され、アジアを侵略する原動力となっていった。
 大戦後、小作人に農地を格安で払い下げる強権的な農地改革が実行されたのは、こうした社会を不安定化する地主制を解体し、国内外の社会主義勢力に対抗しうる安定層を農村に生み出すためだった。この安定層が、自作農であった。農地法は、農家が農地を自分で耕し、農作物を育てるために使う限り、その権利を最大限保障する法律である。これを自作農主義=耕作者保護といって戦後の農政の根幹をなす考え方だった。

資本による農地支配に道開く農地法改訂

 しかし、米価が下落し続けている今日、個々の農家では稲作は採算が合わなくなっている。そこで、集落単位で農業生産法人を作って法人経営とするか、少数の農家が農地を借りて大規模法人経営を行うかという選択が迫られている。大規模法人化ができない集落では、耕作をせずに放棄してしまう水田が増えている。
 こうした現状を打開するために、自作農主義を投げ捨て、資本の力に頼るという選択がなされようとしている。今回の農地法改訂により株式会社でも自由に農地が借りられるようになった。また、農業生産法人への出資制限が緩和された。これにより食品企業や外食企業による生産法人への支配が強まり、いずれは実質的に株式会社でも農地が所有できる道を開くことにつながっていく。
 株式会社の農地所有というのは、資本が国境を越えて動いている時代にあって、農地が外国の資本の手にゆだねられる道を開くということである。そうならないために政府改正案に加えられた主な修正点は@耕作者による農地所有の重要性を指摘し、耕作者の地位の安定を農地法の目的にすること A農地を利用する企業に役員のうち一人は農業に従事すること B家族農業経営に配慮することなどがある。ただ、これでは資本による農地支配という流れの歯止めにはならないだろう。
 魚沼のコシヒカリは、今、日本では最高値で売れるお米だが、この地域一帯の水田が株式会社に占有されるようになれば、その会社がいつ外国資本に買収されるかはわからないし、上海の富裕層しか魚沼コシヒカリは食べられなくなる可能性もでてくる。高く売れればそれでよいとする社長のもとで、農家が従業員として給料をもらい、不満の一つも言えなくなるという仕組みだ。私たち食の根幹が揺らいでいる。

地域農業の活性化に住民の主体的参加を

 日本人は、食料を6割(カロリーベース)まで他国に依存するという不安定なシステムの上で暮らしている。その上、自給できる米を無理やり輸入するというバカげた政策も実行されている。しかし、水田さえ守っていれば、子や孫の代になっても1億2千万人が飢えることはないという安心感はあった。それは、農地は個人の所有であっても、農家の農地に対する倫理観―先祖から預かり、子孫に受け渡していく責任―に信頼があったからだ。それは本質的には農地は社会の共同財産という観念につながっている。
 現在の耕作放棄地の増加は、農地法が悪いのではなく、農業政策の失敗による農業経営の行き詰まりである。農地を保全するためには、地域を支える自給・交換経済を市場経済から相対的に自立させることによって、地域経済を活性化することである。地産地消や直売所などはその一例である。ここには、地域の農業を支えるという主体的な地域住民の農業参加が前提としてある。どこに売り渡されるかわからない株式会社という不安定要素を地域に抱え込むのか、地域住民の参加による地域農業の再建に向かうのか、消費者の選択すべき課題として農地問題はあると思う。


『いのちの秩序 農の力』
―たべもの協同社会への道―
本野一郎著

2006年/コモンズ刊
四六判/256ページ/1995円