ひこばえ通信
2005年8月号(第229号)

海からの便り 第23回 タコは梅雨の雨を吸ってうまくなる!?
鷲尾圭司(京都精華大学)

 今年の梅雨は陽性で、降ったり降らなかったりメリハリの利くものだった。海はというと、雨のたびに濁り水が出て、茶色い海になっている。しかし、茶色いのは海の表面ばかりで、1メートルも潜れば、薄暗いながらも透き通った海水が広がっている。つまり、軽い河川水の濁りが海の表面を被っているばかりなのだ。しかし、明石海峡のように潮の速いところや、外海で波あたりの強いところは、濁りが深みにまで及び、岩場の潜水も難渋することが多い季節だ。

梅雨時には2週間で倍に成長

 「タコは梅雨の雨を吸って大きくなる」などと言われるが、たしかに5月まで手のひらに乗るくらいの小さかったマダコが、見る見る大きくなり、梅雨明けには1キロ級の立派なタコに育っていく。飼育実験でも、2週間で体重が倍になるという急成長ぶりだ。ただし、雨水で水ぶくれになったわけではない。ちゃんと貝やカニ、小魚を食べて筋肉質に育ったものだ。
 先に述べた海の濁りがマダコに味方をしているのだ。マダコは小動物を餌にしているのだが、逆に獰猛な肉食魚に狙われる身でもある。太平洋岸ではウツボが天敵だし、明石では明石ダイが天敵だ。マダイは上品な祝い魚として知られているが、海の中では獰猛な生き物で、もう一度その鋭い歯を見ておいてほしい。明石ダコにとって、明石ダイは目の上のたんこぶのような厄介者だ。

生き延びる力 秘めた味わい

 明石海峡では潮の走っているときにはタコは岩陰で身体を潜め、潮が弱まった小一時間に餌集めをする。そのとき頭上にマダイがいると活動できなくなる。そこへ濁り水が来ると、マダイの目を避けて餌を得ることができるというわけだ。
 急に大きくなり、急にたくさん取れる明石のマダコは、漁師たちの手で干しダコに加工され、昔からタコ飯の材料に喜ばれてきた。近ごろの消費者の軟弱な歯では噛み切れないような干しダコは、扱い量も減っては来ている。しかし、これをかみ締めると出てくる味わいは、明石海峡の潮流や天敵の来襲を潜り抜けた力を秘めている。夏ばて防止に、ぜひ召し上がってもらいたいものだ。