“トレーサビリティ”に想うこと
能勢農場/津田道夫 政府は米国産牛肉の年内輸入再開にむけて米国政府と協議に入っています。しかも国内で行われてきたBSE全頭検査を見直し、20ヵ月齢以下を検査対象外にする方向で調整が進められています。食の安全より米国との関係、なのでしょう。こうなってくると、12月に施行される「牛肉トレーサビリティ法」も、安全性に疑問がある牛肉が出回ることを前提として、消費者の不安をそらすために準備されてきたのか、と思わざるをえません。よつ葉の牛肉は、自前の農場・自前の加工場から会員の皆様にお届けしています。わざわざ「トレーサビリティ」を謳う必要のない体制を築いてきた方向性の正しさを確信し、今後も会員の皆さんと協同してこの方向を一歩一歩進んでいきたいと考えています。 |
日本の牛肉トレーサビリティ法の施行が3ヵ月後に迫ってきた。食肉関係や流通関係の新聞や雑誌には、連日、トレーサビリティ関係の記事が載り、トレーサビリティ対応のコンピュータ機器の宣伝が目につくようになっている。「全てがビジネスチャンス」という印象が強い。JAや全国の生協、ジャスコやダイエーといった大手スーパーが、先を争って、牛肉の履歴開示システムを立ち上げ、宣伝し始めている。テックやイシダ、オムロンといった機器メーカー、システム企業が、トレーサビリティ対応のシステム機器をつくり上げ、売り込みに必死なのだ。「何のために」という法規制の目的は益々後へ追いやられ、商品を売るための宣伝と対策ばかりに注目が集まる。
忘れ去られた安全確保という大義
そもそも、牛肉トレーサビリティ法制定の出発は、日本におけるBSEの発生だった。農水省が「絶対発生するはずがない」と断言してきたBSEの発生で、日本における食肉生産、流通は根本的打撃と見直しを迫られることになった。そして、追い討ちをかけたのが農水省と食肉流通業者、一部政治家の癒着構造が、BSE対策に使われた巨額の税金を偽装工作でだまし取るという事件だった。国民の関心は一挙に高まった。農水省は自らへの責任追及が更に強まることを沈静化させるために、国産牛の全頭BSE検査体制をつくり、国内で肥育されている牛全頭を10ケタの番号でコンピュータ管理する「牛の個体識別管理体制」をスタートさせ、そして、今年12月から、店頭で販売される全ての国産牛肉の履歴開示を義務付ける「牛肉トレーサビリティ法」を始めたのだ。 現場の活力こそが食の安全を生む 国民の食の安全を確保するためには、その食べ物が生産されている現場、農業・畜産・食品加工の現場を、より安全で、質の高い生産が可能となるよう強化・改善することが必須だろう。農業や畜産に従事する人達が、生き活きとして積極的に生産活動に励むことができないで、どうして食の安全が生み出せるというのだろう。ところが、政府や農水省のやっていることは、まったく逆のことばかりに見えてくる。大手の流通業者や外食産業の利害ばかりに目を奪われているように見えてくる。廃業し、牛飼いをやめていく牧場の話を聞くたびに、離農し、農業から撤退した農家の話を聞くたびに、腹が立って、頭に血がのぼる。現場の技術や知識の継承と人づくりは金では買えないものなのに……。 |